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グランドセイコー 機械式クロノグラフムーブメント“テンタグラフ”が満を持して登場。

グランドセイコーの“テンタグラフ”は、僕が長らくその登場を楽しみにしていた時計のひとつでした。その理由は、このモデルがリリースされるよりも数年前に特許庁の公開公報(商標)のなかで“TENTAGRAPH”の文字を見つけていたからです。

“TENTAGRAPH”の名称は、TEN beats per second(10振動)、Three days(3日間のパワーリザーブ)、Automatic(自動巻き)、chronoGRAPH(クロノグラフ)から取ったもの。

直径43.2mm、厚さ15.3mmとマッシブなブライトチタン製ケースに印象的なブルーダイヤルとブラックセラミックスベゼルを備えたモダンでスポーティな印象のクロノグラフは、見本市のショーケースのなかでもひときわ存在感を放っていました。

グランドセイコーのブースで実際に手に取ってみると、その大振りな見た目に反して非常に軽快感のあるケースに驚き、美しいダイヤルを眺め、クロノグラフを操作しながら「やはり実機で見なければわからないことは多い」と改めて実感しました。

ですが、このグランドセイコー初の機械式クロノグラフがいったいどんなものであるかを見極めるためには、さらにたっぷりと時間をかけてレビューをする必要があることも明らかでした。

グランドセイコーのクロノグラフ
SLGC001を深掘りする前に、グランドセイコーのクロノグラフを簡単におさらいしておきましょう。同社のクロノグラフウォッチの根底にある価値観が見えてくるからです。

グランドセイコーは、1960年に「世界に挑戦する国産最高級の腕時計をつくる」という志のもとに誕生して以来、高い時間精度、見やすさ、使いやすさ、耐久性という腕時計の本質を高い次元で追求・実現してきたブランドです。

意外に思われる方もいるかもしれませんが、2007年に自動巻きスプリングドライブクロノグラフ GMTのCal.9R86が登場してからグランドセイコーのクロノグラフムーブメントはスプリングドライブのみ。

大きなトルクで半永続的な動力源を持つ機械式時計と高い精度と安定性を持つクォーツ式時計の両方のよい部分を取り入れながら、脱進機と電池という本質的な構造的弱点を排除したスプリングドライブは、ブランドの思想を反映したクロノグラフを実現するためのベースとして、最適だったのです。

約72時間(約3日間)のパワーリザーブと平均月差±15秒(日差±1秒相当)を誇るCal.9R86は、世界で最も正確なゼンマイ駆動のクロノグラフのひとつです。

また、Cal.9R86を搭載したブランド初のクロノグラフ SBGC001は、計時の際の視認性を高めるためにクロノグラフ秒針と5分の1秒単位の細かい目盛りの距離をギリギリまで詰めるなど創意工夫が盛り込まれていました。
ここから見えてきたのは、グランドセイコーのクロノグラフを理解するためのキーワードが「高精度」「堅牢性」「視認性」そして「ユーザビリティ」であるということです。

エボリューション9 コレクション “テンタグラフ” SLGC001

ムーブメント

グランドセイコー初の機械式クロノグラフCal.9SC5は、ベースムーブメントのダイヤル側にクロノグラフモジュールを組み合わせたモジュール式クロノグラフムーブメントです。

実は「毎秒10振動のクロノグラフを作る」というアイデアは10年以上前からあったそう。テンタグラフの企画を担当したセイコーウオッチ商品企画一部の江頭康平氏によれば、「2009年発表のCal.9S85がベースとして候補に上がっていたものの、厚みのあるケースと約55時間というパワーリザーブから難しいと考えました」。

それを解決し、テンタグラフの完成を実現へと導いたのが、2020年に発表されたハイビートムーブメントCal.9SA5でした。「Cal.9SA5は薄く、パワーリザーブも長いのです」。

ベースのCal.9SA5は、ハイビート(3万6000振動/時)にして約80時間のパワーリザーブを実現するため、ふたつの香箱を並列に配置するツインバレルを採用。動力ゼンマイの力を効率よく伝達するためのデュアルインパルス脱進機、安定した精度を実現するためのグランドセイコー独自の巻上ひげやグランドセイコーフリースプラングなど、同ブランド誕生以来のスキルと経験が結集して作られた次世代のムーブメントです。

9SA5は水平輪列構造が取り入れられることで薄さを重視したキャリバーであったため、発表当時から今後の展開についても期待されていましたが、その最初のムーブメントとなったのが、この自動巻きクロノグラフCal.9SC5というわけです。
クロノグラフモジュールには垂直クラッチとコラムホイールが採用されており、フルスクラッチから設計されたもので、そのすべてはダイヤル側に配されています。そのためトランスパレントバックから確認できる部分のムーブメントは基本的にCal.9SA5と共通です。

もちろんムーブメントの曲線を多用した造形、デザインや面取りなどの審美的な美しさは素晴らしいですが、クロノグラフ機構を搭載したことによるムーブメントの構造を見たいという思いに駆られます。

関連商品:https://www.yokowatch.com/Seiko-Watch.html

これは最も希少で、最も美しいデイトナのひとつだ。

ロレックス デイトナ 6240 ソロは今どうなっているのか?

このデイトナの文字盤には、“COSMOGRAPH”も、“OYSTER”も、ましてや“DAYTONA”という字もない。書かれているのは“ROLEX”だけ。これは興味深い時計であり、文字盤の印刷の多くが段階的に行われたことを考えれば納得がいく。しかしこれらの文字盤はどこから来たのか、そしてどの時計に付けられているのか? これについて、先週私のデスクに届いたRef.6240を参考に、少し検証をしてみよう。

まずはデイトナダイヤルの進化について理解を深める

ポール・ニューマン デイトナのReference Points記事を読んだ人なら、デイトナの文字盤印刷がゆっくり進化した過程にあったことを知っているはずだ。ある方法で始まり、“デイトナ”という名前が付けられ、そこから発展していった。その後、ロレックスのブランド名であるクロノグラフに“オイスター”ケースが提供されると、再び進化を遂げる。これらはすべて数年以内に起こったことであり、多くの場合、ある方法で生まれたダイヤルが、後から1行付け加えられたということがある。例えば、“RCO”や“オイスター ソット”と呼ばれる、信じられないほど初期のオイスター ポール・ニューマンに見られるようなものだ。もちろんこれらの用語は後付けのようなものとして、“ROLEX COSMOGRAPH”という言葉の下に、“OYSTER”を付け加えたことを示している。

デイトナダイヤルの究極の進化例である、“RCO” デイトナ。
デイトナの世界は“ミッシングリンク”ダイヤル、つまりある文字盤の特徴とほかの文字盤タイプの特徴を併せ持つものが数多く存在する。そして、それが正しい可能性も秘めている。例えばダブルスイスダイヤル、ダブルスイスアンダーラインダイヤル、ダブルT-Swiss-Tダイヤルなどがあり、これらはすべて非常に小さなシリアル番号のレンジ内で発見できる。

シリアルナンバー923xxx、ダブルスイス&アンダーライン入り。Courtesy of Sheartime.com

シリアルナンバー1,04x,xxx、アンダーラインなしと“T-Swiss-T”が特徴。Courtesy of ShearTime
ヴィンテージデイトナについては、よく見かける6239と6263からめったに見られない6264や6240まで、いくつかの異なるリファレンスがあるが、私が最も興味深いと思っているのは、このRef.6240だ。

では、6240はどうなっているのか?

初期の6239のダブルスイスは、デイトナのなかでは間違いなく最も魅力的な組み合わせだと、私は今でも思っている(その昔、私がそれらについて書いた記事を読んでほしい)。当時はまだル・マンと呼ばれており、このファミリーを築くにあたってのコンセプトは具現化されていなかった。しかし個人的なリファレンスとして、6240は魅力的である。ねじ込み式プッシャーとブラックベゼルを備えた、現在のデイトナの基礎を築いたモデルである。まさに最初の“オイスター”デイトナであり、防水性はロレックスの代名詞とも言える品質だったため、その意味は何よりも大きい(詳しくはロレックスのInside The Manufacture記事を参照)。1,200,000~1,600,000までのシリアル番号を持つ6240には、多彩な種類のダイヤルが存在する。最も一般的に見られるのは、“OYSTER”または“DAYTONA”の文字がなく、6時位置に“T-Swiss-T”があるものだ。次に、最も一般的に受け入れられている2種類のダイヤルを紹介する。

6240、通称“ビッグデイトナ”。Courtsey of RingofColor.com

対して、こちらは6240の“スモールデイトナ”。Courtsey of RingofColor.com
上に掲載した文字盤のいくつかの進化系は、6240 RCO(藤原ヒロシ氏が運営するRingOfColor.comに掲載された、6240に関する素晴らしい記事より引用)のもので、10本以下しか知られておらず、売りに出されると高値で取引される。“ROC”ダイヤルを持つ6240も見かけるが、いずれも下部にT-Swiss-T、またはシグマサインがある。だが、私はこれらを少し受け入れがたいカテゴリーに分類したい。純粋な6240が欲しいのであれば、上のふたつの文字盤のどちらかがいいと思う。繰り返しになるが、私はROCスタイルのダイヤルを持つ6240が正しくないと言っているのではなく、このような初期のねじ込み式だと、非オイスター文字盤のほうが理にかなっていると思っているのだ。

2016年5月、フィリップスにて6240 “RCO”が、28万1000スイスフラン(当時の相場で約3100万円)で落札された。
現在すべてのパーツを完備した6240には、下に見えるMK1ベゼルとMK0のブラスプッシャーが付いているはずだが、6240の大多数はどちらか一方を失っている。私にとっては初期の6239で言ったように、6240を特徴づける特徴がない限りそれを購入する意味はない。だからMK0のプッシャーがなければ、個人的に6240にはほとんど興味がわかないのだ。

次にソロダイヤルについて

珍しい“ソロ”ダイヤルが特徴のRef.6240。
あえて言うならば、6240ダイヤルの正確性はたとえヴィンテージロレックスの収集という不透明な世界であっても、想像しうる限り曖昧な領域である。そこで手元にある時計、6240 “ソロ”を紹介しよう。
 これまでのところ、特に1960年代初期のデイトナでは、文字盤に異なる文字列がある場合とない場合があるのをこれまで見てきた。デイトナのダイヤルのなかで最も小さいのが、ここにある“ソロ”ダイヤルだ。この文字盤にあるのは“ROLEX”の文字だけ。ほかにはない。というのも、ごく初期の6240は、最初からこの文字盤だった可能性があるのだ。古いロレックスの例に漏れず、ロレックスはこれらの文字盤の起源について肯定も否定もしない。現在の市場では、シリアルナンバーが1,200,000~1,400,000の6240で、これらのソロダイヤルを見ることができる。数年前から時々現れるようになったが、実際に注目している人はほとんどいなかった。

この6240 ソロは、2015年5月にフィリップスで24万5000スイスフラン(当時の相場で約3085万円)で販売された。
6240 ソロのコンセプトは、2015年5月に行われたフィリップス・ジュネーブウォッチオークション ワン・セールでの個体が、24万5000スイスフラン(当時の相場で約3085万円)で落札されたことで確固たるものとなった。その後、市場はこれらの時計を狩り始めたようで、オークションやそのほかの場所で多くのものが表面化していった。実際、この記事を書いている時点では、Chrono24.comで入手可能な例があり、このオリジナル写真で紹介したものも入手が可能だった。この時計を所有しているEast Crownの写真には4本の6240 ソロが写っているが、うち3本は非公開の開催のようだ。

しかし6240 ソロは理にかなっているだろうか? そう思う人もいれば、そうでない人もいる。ひと握りの信頼できるディーラーや愛好家のあいだでは、このソロダイヤルは6238用のサービスダイヤルであるという説もある。ただこれは、必ずしも私自身が信じていることではない。前提がそうなら、なぜロレックスはタキメータースケールが印刷されたモノクロ文字盤を、タキメーターのない2色文字盤に交換したのだろう? ただただ意味がわからなくなる。

6239はそうではないにしても、ソロダイヤルの本家本元であることは間違いない。
ただ私が信じているのは、これらのダイヤルはもともと6239に使われていたということだ。実際、私はそれを信じているというより、その理由を知っている。それを示すロレックスの広告にその様子が描かれているからだ。上の画像はゴールドバーガー(Goldberger)氏の提供によるもので、この広告にはソロデイトナが前面に出ており、その価格は連邦税を含むわずか210ドル(当時の相場で約7万5600円)で購入できると掲載されている。フィリップス香港にて、初期の6239ソロ ダイヤル(針とベゼルは交換されていたが)が販売されたが、あまり金額は集まらなかった。UPDATE: ホセ・ペレストロイカ(Jose Pereztroika)氏の熱心な調査により、フィリップスが2016年に香港で販売した個体は文字盤が変更されていたことが判明した。詳しくはこちらから。

この初期の6239 ソロは、フィリップスによって10万ドル(当時の相場で約1105万円)以下で売却された。ただアンティコルムで販売以来、この時計は何者かによって加工されていたのだろう。慎重にならなければいけない。
今では特別な文字盤を持つポンププッシャーの時計は、同じく特別な文字盤を持つオイスターデイトナほどセクシーではない。ポール・ニューマンがそれを教えてくれたのだ。だからディーラーはどこかでこのソロダイヤルを、6240ケースに収めるというアイデアを得た可能性は高い。私でさえ、6239 ソロより6240 ソロのほうがより魅力的だと認める。誤解しないでほしいのは、6240 ソロがそのように生まれなかったかもしれないと言っているのではないということ。それは私にとっては理にかなっているというだけだ。当時のロレックスがどのように機能していたか、そして生産と組み立てがいかに直線的で、しかも規制されていなかったかを忘れてはならない。もしこのような文字盤が組み立て中に入手可能で、時計職人がダイヤルを必要としていたなら、いとも簡単に出荷前の6240に文字盤を入れられただろう。我々は何も確実なことを知らないのだから、結局は理性が何を教えてくれるのか、そして個々の時計の背後にある物語に従うしかないのだ。私の知る限り、オリジナルオーナーの6240 ソロの時計の話は聞いたことがない(もし知っていて、その話を裏付けることができるのであれば、コメントを残して欲しい)。ただ6263 RCOと6240 RCO(ノンポール・ニューマン)のオリジナルオーナーの時計については聞いたことがある。同様に6239 ソロのオリジナルオーナーの時計が見つかったという話も耳にしたことがある。何度もお伝えするが、6240に疑問を投げかけるためにこのようなことを言っているわけではない。実際、これらの時計が際限なく興味深く魅力的であることは認めざるを得ない。ただ私は、10万ドル以上で取引される特別な時計について、そして市場で目にする機会が増えている時計について、現在の考えを述べたにすぎない。

冒頭で述べたように、6240は真に魅力的な時計であり、間違いなくロレックスの歴史のなかで最も重要なリファレンスのひとつである。そして市場に出回っている6240のこの小さな組み合わせは決して多数派ではなく、ヴィンテージデイトナの世界のほんの片隅にある、絶妙で極小なニュアンスにたまたま興味を持ったのだ。時間が経ち、より多くの人々が6240 ソロについて知るようになれば、私はさらに6240 ソロについてもっと理解できようになるだろう。そうしたらこのページは更新していくつもりだ。そこで質問だが、今6240 ソロについて知った上で、あなたはポール・ニューマンよりも6240 ソロを購入するだろうか? 私の考えでは、それはより興味深い選択であり、また控えめな選択であることは確かだが、彼らがどのようにして生まれたか確信するまではリスクが大きすぎるだろうか? 純粋にどっちに転ぶかわからないが、この時計についてどう考えたか、コメントで意見を聞かせて欲しい。

関連商品:https://www.hicopy.jp/brand-copy-IP-1.html

メルセデス・グライツが1927年に着用したロレックス オイスターが、

1927年にイギリス人泳者グライツが着用したこの歴史的な時計は、耐久の象徴であり、ロレックスの歴史において最も重要なタイムピースのひとつです。
 

1927年の“ヴィンディケーション・スイム(Vindication Swim、イギリス海峡再横断泳)”にて、メルセデス・グライツ(Mercedes Gleitze)が着用したロレックス オイスターが、25年ぶりに姿を現します。2025年11月、サザビーズのImportant Watches Live Saleに出品されるのです。この横断のストーリーはウォッチメイキングの伝説として知られていますが、彼女が首にリボンで下げていたあのオイスターそのものが人前に姿を現すことは、これまでほとんどありませんでした。

同年10月7日、メルセデス・グライツは15時間15分をかけてイギリス海峡を泳ぎ切り、同海峡横断を果たした初のイギリス人女性となりました。ところがその数日後、別の泳者が虚偽の成功を主張したことで、グライツの偉業に疑念が生じることになったのです。
ライバルの泳者が虚偽の主張を認めたあとも、グライツはすでに自らの記録を守るために再挑戦を決めていました。10月21日、悪化する天候のなか再び海へと向かったこの挑戦こそヴィンディケーション・スイムとして知られることになります。しかし彼女は氷のように冷たい海峡で10時間以上泳いだのち、やむなく断念せざるを得ませんでした。それでも残ったのは、あの時計と彼女が築いた伝説だったのです。

1927年10月11日、イギリス海峡横断を果たしてから4日後に撮影されたグライツ。Photo courtesy of Sotheby's. 
オイスターは水の侵入を防ぎながら動き続け、その防水ケースが約束どおりに機能することをロレックス自らが実証する結果となりました。私は、最良のマーケティングとは製品そのものだと常に信じていますが、この考えは1世紀前と同じく、今もなお真実であり続けています。ロレックスは小手先の宣伝など必要とせず、数週間後には『Daily Mail』に“海峡に挑んだ時計”と題した広告を掲載したのです。

ヴィンディケーション・スイム中のグライツ。Photo courtesy of Sotheby's.

ヴィンディケーション・スイムの途中にいるグライツ。Photo courtesy of Sotheby's.
グライツはその後、ブランドアンバサダーという概念がまだ存在しなかった時代に、ロレックス初のテスティモニー(ロレックス独自の用語。アンバサダーという意)となりました。彼女は生涯にわたってオイスターを身につけ続け、ロレックスもその名声を築くうえで彼女が果たした役割を決して忘れることはありませんでした。それから約1世紀を経た今も、ひとりの泳者とその時計は常に並び称され、ロレックス オイスターという存在そのものの象徴として語り継がれています。そして今、ブランド史上もっとも伝説的な時計のひとつが姿を現そうとしており、そのハンマーがどこで落ちるのか...注目が集まります。

関連商品:https://www.yokowatch.com/Rolex-Watch.html

メゾンのカルト的人気モデルが、エナメルダイヤルと自社製ムーブメント。

ルイ・ヴィトン モントレーはここ数年、時計界の潮流のなかで静かに存在感を示してきた。2023年にタイラー・ザ・クリエイター(Tyler, the Creator)氏が着用しているのが目撃され、その後TikTokでおなじみのヴィンテージウォッチ関係者によって再浮上。今年の初めにはルイ・ヴィトン 2025秋冬ウィメンズ・ファッションショーのランウェイで、アーティスティック・ディレクターであるニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquière)氏と、スタイリストのマリ=アメリー・ソーヴェ(Marie-Amélie Sauvé)氏がモデルの手首や首元をオリジナルのLV Iで飾った。9月末の2026春夏コレクションのランウェイではLV IIが登場し、今度はベルトの装飾として着用された。そして今回、メゾンは新しいモントレーを正式に発表した。これはルイ・ヴィトン初の腕時計の復活版だ。39mmのイエローゴールド(YG)製の本作はホワイトグラン・フー エナメル ダイヤル、自社製自動巻きムーブメントLFM MA01.02を搭載し、188本限定で製造される。

 モントレーは、1988年にLV IとLV IIとして誕生。どちらも、パリのオルセー駅をオルセー美術館へと変貌させたことで最もよく知られ、戦後のイタリアンデザインを決定づけたシャープでモダニズム的な家具やインテリアを手がけたイタリアの建築家兼デザイナー、ガエ・アウレンティ(Gae Aulenti)によってデザインされた。“私の作品にスタイルを定義することは不可能だ”と、アウレンティは1987年に『ニューヨーク・タイムズ』で語っているが、その言葉はここでは特にしっくりくる。ルイ・ヴィトンの時計製造への最初の進出にあたり、アウレンティがデザインし、ギュンター・ブリュームライン(Günter Blümlein)の指揮の下、IWCが製造を担当した。

 その結果として誕生したのが、ふたつのクォーツモデルだ。ひとつはLV Iで、ムーンフェイズ、デイト、アラーム機能を備えたYG製の40mm径ワールドタイマーが限定100本。もうひとつはLV IIで、37mm径のセラミック製アラームウォッチとして4000本が生産された。ジャン・アルノー(Jean Arnault)氏が2023年にInstagramに投稿した“NWA”で見られるように、ごく少数のホワイトゴールド製LV Iも製造された。これらは野心的ではあったが、決して完璧ではなかった。両モデルとも生産の遅延や技術的な問題に悩まされ、当時としては高額だった価格設定も販売の障壁となった。当時のモントレーは高価で難解であり、そしておそらく時代を少し先取りしすぎていたのである。しかし今見るとそのペブルシェイプ、12時位置のリューズ、そして初期の素材への実験は、失敗というよりも、時を経てカルト的な地位を確立した、珍しくも風変わりな回り道のように読み取れる。

ルイ・ヴィトン LV I “モントレー I” ワールドタイム、18KYG、クォーツ(1988年)

オールドモデルとニューモデル!
 この新しいモントレーはオリジナルに忠実でありながら、現在のルイ・ヴィトンのマニュファクチュールの実力を存分に発揮している。39mmのYG製ケースは完全に自社内でポリッシュ仕上げを施し、12時位置にはクル・ド・パリをあしらった特徴的なリューズ、そしてラグのないクイックリリースシステムはレザーの下に隠されている。本物の見どころはエナメルダイヤルだ。純白のグラン・フー エナメルは、完璧につくるのがきわめて難しいことで知られており、20時間以上にもわたる重ね塗りと900°Cまでの複数回の焼成が必要となる。

 デザインはオリジナルに比べて明らかに簡潔化されており、複雑機構を排してエナメル加工を主役に据えた、よりクリーンでグラフィカルな仕上がりとなっている。レッドとブルーの目盛りは複数回の焼成工程で転写され、視覚的なインパクトを生み出している。ラッカー仕上げのシリンジ針とブルーの秒針は、オリジナルのレイアウトを反映している。内部には自動巻きCal.LFT MA01.02が搭載され、ローズゴールドのローターと控えめに刻まれたジュネーブ・シールを備え、パワーリザーブは45時間を誇る。




我々の考え
このモダンなモントレーが登場したとき、それは無名のなかから現れたのではなく、すでに注目を浴びていた。しかしルイ・ヴィトンがこの時計を復活させるために選んだ方法は、一般的なヴィンテージの復刻版とは一線を画している。モントレーは、再発見されるのを待っていた隠れた傑作ではない。それは80年代後半の風変わりな実験であり、新しい世代のコレクターやファッション業界のインサイダーのあいだで最近になってようやくその地位を確立したのだ。メゾンは単なるノスタルジーに頼るのではなく、この復刻を正確で自己完結したジェスチャーとして捉え、カルト的な人気モデルに敬意を表すると同時に、ブランドが現在メゾンで実行できることを誇示する方法として見せているのだ。



 戦略的に見て、これは新たなプロダクトラインの幕開けでも、大衆向けの製品を市場に投入するものでもない。これは意図的で厳密に管理された“1度きり”のリリースである。「私たちにとって、これは過去へのオマージュです。しかし現代的なやり方で」と、ルイ・ヴィトンの時計部門ディレクターであるジャン・アルノー(Jean Arnault)氏は語る。「実現の方法はいくつもありましたが、私たちはラ・ファブリク・デュ・タンがもし今これを新しい時計として作るとしたら、どうするかを考えたのです。つまりエナメルダイヤル、自動巻きムーブメント、すべてを自社製で仕上げるという方法に決めたのです」。また彼はこのプロジェクトがマニュファクチュールの実力を誇示するだけでなく、先にこの時計を見出した人々への敬意を表す意味もあると強調する。「ヴィンテージピースを手に入れたコレクターたちに敬意を示したいのです。それは私たちへの多大な信頼を必要とするからです」と彼は付け加えた。
 もちろん、今の時計業界がヴィンテージ復刻モデルであふれていることは誰もが承知している。多くのブランドがノスタルジーに大きく依存し、過去の名作を再発して、その温かい感情や実績あるデザインに支えられた人気を再び手にしようとしているのだ。だが、モントレーはそうしたパターンからわずかに外れた位置にある。オリジナルのモデルは商業的に成功したわけでもなく、ルイ・ヴィトンのウォッチメイキングの未来を示唆する存在でもなかった。それはむしろ、時代の空気を映し出した風変わりな寄り道のようなものであり、近年になってようやくクールな評価を獲得した時計なのである。メゾンはここで歴史を書き換えようとしているわけではない。むしろ、カルト的な人気を誇る1本を正確かつていねいに扱っているのだ。わずか188本という限定数が示すように、これは大量復活ではない。研ぎ澄まされた、意図的なリバイバルなのである。


基本情報
ブランド: ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)
モデル名: モントレー(Monterey)
型番: QAA03 

直径: 39mm
厚さ: 10.7mm
ケース素材: 18Kイエローゴールド
文字盤色: ホワイトグラン・フー エナメル ダイヤル、レッドとブルーの目盛り
インデックス: プリントされたアラビア数字とレイルウェイトラック
夜光: なし
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: クイックリリースシステム付きブラックレザーストラップ、18KYG製ピンバックル

ムーブメント情報
キャリバー: LFT MA01.02(自社製自動巻き)
機能: 時・分表示、センターセコンド
直径: 31mm
厚さ: 4.2mm
パワーリザーブ: 45時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 4Hz(2万8800振動/時)
石数: 28
クロノメーター認定: なし
追加情報: ローズゴールド製マイクロローター、ラ・ファブリック・デュ・タン ルイ・ヴィトンで製造および仕上げ、ジュネーブ・シール

関連商品:https://www.jpan007.com/brands-category-b-24.html

サザビーズが、ジョージ・ダニエルズとロジャー・スミスの時計

オークションハウスは誇張表現が大好きである。そのため私自身を含めて、ほとんどの人は敬遠しがちだ。秋のオークションシーズンが近づき、各オークションハウスが今年の目玉商品を発表する今、私のひそかな関心を抑えるために懐疑心は自然と高まっている。しかし今回のマーケティングの話には反対しがたい。サザビーズが今発表したのは、決定的にではないにせよ、オークションハウス史上最も重要な腕時計の組み合わせのひとつだからだ。

この秋、オークションに出品される歴史と友情によって表裏一体となったふたつの時計とは、ジョージ・ダニエルズ最後のミレニアムウォッチと、ダニエルズの名を冠し、彼の弟子であるロジャー・スミス氏が製作した最初のコーアクシャルアニバーサリーウォッチだ。私は時計にまつわる個人的なストーリーが好きだからかもしれないが、この発表に興奮しないわけにはいかなかった。このふたつの時計はともに、現代史において最も重要なふたりの英国人時計師の軌跡をたどることになるものだ。

「このふたつの時計にはたくさんの思い出が詰まっており、私の初期のキャリアと、かつて、そして今なお私に大きなインスピレーションを与えてくれる指導者であるジョージ・ダニエルズとの関係を象徴しています。このふたつの時計は、私とジョージの物語を締めくくるにふさわしいものです」とスミス氏は言う。「ひとつは私がまだ未熟だった頃に彼の厳しい指導のもとで製作した最初のモデルであり、もうひとつは、それから10年以上経て製作したコーアクシャルアニバーサリーシリーズの最初のモデルです。この時計は、ジョージのために私がデザインし製作したもので、私自身の成長と技術の証明であり、彼との見習い期間を終えた証でもあります」と続ける。

ある年、スミス氏はダニエルズの時計を欲しがり、ボーナスの代わりにミレニアムを要求した。それは取るに足らない頼みではなかった。ミレニアムシリーズは、ジョージ・ダニエルズ愛用の腕時計となったプロトタイプ1本を除き、1998年から2001年にかけてわずか60本しか製造されなかったからだ。スミス氏はこの要求だけでなく、文字盤に彼の名前を入れることも許可され、ダニエルズ唯一のダブルシグネチャーウォッチとなり、ロジャー・スミスのブランド名を冠した初の腕時計となった。彼のフルネームはホワイトゴールドのケースバックにも記されている。

今や高い評価を得て長いウェイティングリストを抱えるスミス氏が、自身の工房を成長させるために2008年にこの時計を売却せざるを得なかったことは少々心が痛むことではあるが、あの資金注入がなかったら彼がここまで成長できたかどうかは誰にもわからない。そしてサザビーズが提供する2番目の時計を手にすることもなかったかもしれない。

イエローゴールドのコーアクシャルアニバーサリーウォッチは、2010年にジョージ・ダニエルズの依頼で製作された。ミレニアムの発表からこの依頼を受けるまで10年近くを要し、スミス氏はダニエルズの“愛すべき子ども”ともいうべきコーアクシャルエスケープメントを改良し、ダニエルズの名を冠した時計に新バージョンを加えることをダニエルズから許可された。ダニエルズは他人の時計づくりに感心することはほとんどなかったため、それ自体が偉業のように感じられた。また、このシリーズのためにスミス氏が特別に設計した、まったく新しい英国製キャリバーも採用されている。全部で47本が製造される予定で、ダニエルズが亡くなったにもかかわらず、現在も製造が続けられている。しかしこの時計は最初に製造されたものである。

サザビーズは、ロジャー・スミス氏がこれらの時計の重要性について語る素晴らしいビデオを作成した。また、これには巡回プレビューやオークションに先駆けて実物を見ることができるまでに十分な多くのディテールショットも含まれている。私は、彼が自分がまだ“未熟”だったと認めた頃の作品と、その後のアニバーサリー作品の作品を比較してみたいと思っているため、両方の時計がニューヨークを経由することを願っている。 それを同時に行える機会はあまりないからだ。

WG製のミレニアムウォッチは100万スイスフラン(約109万ドル、日本円で約1億6175万円)以上、YG製のコーアクシャルアニバーサリーウォッチは50万スイスフラン(約54万6000ドル、日本円で約8105万円)以上と予想されている。叶うとは思えないが、これらの時計が一緒に保管されるのを見ること以上に、私はスミス氏の手に戻るのを見たいと思っている。スミス氏の懐中時計 No.2は今年、フィリップスで490万ドル(日本円で約6億8925万円)で落札され、英国時計の記録を打ち立てたばかりだ。どちらかの時計が単独でこの記録を塗り替えることはないだろうが、一緒の場合はどうだろう? それは誰にもわからない。

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