エントリー

フルメタルのG-SHOCK GM-B2100をベースに、エイジド加工でヴィンテージテイストに仕上げた限定モデル。

PORTERとのコラボレーションで誕生した本作をPORTER OMOTESANDOからご紹介。

「落としても壊れない丈夫な時計」というたった一行の企画書から始まったG-SHOCK。1983年のファーストモデル誕生以来、タフネスを追求し続けたG-SHOCKは今年40周年を迎えました。この特別な年を盛大に祝うため、カシオからすでに数多くのG-SHOCK 40周年記念モデルがリリースされています。いよいよフィナーレが近づくなか、G-SHOCKからPORTERとのエキサイティングな新作コラボレーションモデルが登場しました。

ベースとなったのは八角形ベゼルが特徴の2100シリーズのフルメタルモデルであるGM-B2100です。フルブラックのエイジドIP加工が施されたスティール製のケースとブレスレットやフォティーナ仕様の針の組み合わせによって、使い込まれたヴィンテージウォッチのような雰囲気に仕上げられています。初代DW-5000と同じレッド、ブルー、ゴールドのカラーリングが採用されており、ローキーにG−SHOCKの40周年を体現しています。

新作のGM-B2100VF-1AJR(左)とDW-5040PG-1JR(右)、どちらもG-SHOCK 40周年記念モデル。

光の当たり方によってインデックスは様々な色に変化する。

そしてもちろんPORTERとのコラボレーションによる特別なコレクションバッグも提供されます。素材には、イギリス空軍パイロット用の耐水服素材をルーツに誕生したベンタイルとよばれる高機能素材を取り入れ、G-SHOCK同様にタフな作りです。GM-B2100の八角形のデザインからインスピレーションを得て、バッグの底面も同様に八角形にデザインされています。小さめのラップトップやタブレット端末を収納しても十分余裕のある日常使いしやすいサイズです。

さらに中には時計を最大5本まで収納できる専用のウレタンフォームも付属するので、これまでコレクションしてきたG-SHOCKを収納するのもいいし、すべてを埋めるように次の1本を手に入れるのもアリでしょう。

PORTERとのコラボレーションによる特別なコレクションバッグ。


G-SHOCKとPORTERのロゴが並ぶ。


バッグのなかには型押しされたレザーのG-SHOCK40周年のロゴ。


5本のG-SHOCKを収納してみるとこのような感じに。

 G-SHOCKとPORTERのコラボレーションは、これまでにもいくつもリリースされていますが、どれも高い人気を誇るコレクターズアイテムとなっています。僕たちは2年前にも訪れた表参道にある吉田カバン初の直営店PORTER OMOTESANDOを訪れ、そんな特別なG-SHOCKとバッグを実際に手に取る機会を得ました。より詳しい解説を上のビデオからぜひご覧ください。


G-SHOCK GM-B2100VF-1AJR 40th ANNIVERSARY PORTER Collection BAG SET

ケース: エイジドIP加工が施されたステンレススティール、49.8 × 44.4 × 12.8 mm / 165 g、ムーブメント: 世界6局の標準電波を受信し、時刻を自動修正するマルチバンド6、タフソーラー、その他: 高輝度なフルオートダブルLEDライト。価格: 18万4800円(税込)

取扱店舗: PORTER OMOTESANDO、PORTER TOKYO、PORTER OSAKA、および吉田カバンオフィシャルオンラインストアにて11月10日(金)から(吉田カバンオフィシャルオンラインストアでは12時頃から発売)。

カルティエは、長年にわたりオープンワーク仕様の懐中時計・腕時計を膨大な数販売してきたが、

1917年、カルティエ タンクが初めて発表されて以来、何年にもわたって実にさまざまなバリエーションやサブバリエーションが誕生したが、驚くべきことにこれらの種類のほとんどがスケルトナイズ、またはオープンワークされたムーブメントを使用していない。確かにカルティエは、長年にわたりオープンワーク仕様の懐中時計・腕時計を膨大な数販売してきたが、オープンワークのタンクの登場は、2004年に発表されたタンク ルイ カルティエ ノクタンビュール(コレクション・プリヴェ・カルティエ・パリ、通称CPCPの一部)までなかった。その後、2013年にタンク MC スケルトン、2014年にはタンク LC サファイア スケルトンが発表され、いずれも高い評価を得て大成功を収めている(その年にはアイコニックなクラッシュのスケルトンバージョンも加わり、同様に評論家のあいだで話題となったが、もちろんそれはタンクではない)。タンクの誕生100周年を記念して、かなりの数の新作が発表されているなか、今回は1921年にカルティエが初めて販売したタンクの初期モデル、タンク サントレ初となるスケルトンバージョンを紹介しよう。


タンク サントレ スケルトンは、史上3番目となるオープンワークムーブメントを搭載したタンクである。

タンク サントレは長年にわたり、いくつかの異なるバリエーションを発表してきたが、これまでにその超劇的に細長いケース(“サントレ”とは、曲がっている、または湾曲したという意)にオープンワークキャリバーを収めたことはなかった。その理由はおそらく、美しい外観の効果を得るために、ケースによくフィットし、ケースの湾曲に沿う長方形のムーブメントが本当に必要だったからだろう。それ以前のモデルでは、おそらく丸型ムーブメント、またはムーブメントサプライヤーによる既存のストックから作成された、標準的なレクタンギュラー型またはトノー型ムーブメントを用いていたのだろう。このような極端なムーブメント形状は、どのムーブメントサプライヤーのカタログにも含まれていなかっただろうし、ひとつの時計のために生産するには、おそらく法外的に高価だったと思われる。しかし新しいタンク サントレ スケルトンは、この目的のために特別に意図されたムーブメントを搭載しており、供給キャリバーよりもはるかに満足のいく結果を得ることができた。


“サントレ”とは曲がった、湾曲したという意味で、ケース形状のことを指している。

1920年代のサントレのオリジナルバージョンでは、7、8、9リーニュのムーブメントを搭載した比較的長いモデル、もしくは小振り(最も長いケース寸法を越えて)なモデルに対応する、いくつかの異なるムーブメント径が用意されていた(なお、リーニュとは伝統的な時計製造における単位のことを指す。1リーニュは約2.2558mmに相当し、この単位は現代の時計製造、そしてボタンやリボン作りにも生かされていた)。またヴィンテージサントレには、非常に特徴的なミニッツトラックがあった。ヴィンテージのカルティエ タンク サントレ、1921年製。

ミニッツトラックは基本的に改良された長方形だ。写真のようにオープンワーク加工されたサントレ(Cal.9917 MC)のために製造されたムーブメントは、このミニッツトラックを手巻きムーブメントの構造基盤として使用している。

一般的に、カルティエはオープンワークムーブメントをカスタム(クラッシュのスケルトンバージョンは、私が今まで見た腕時計のなかで最も魅惑的なもののひとつである)して、デザイン的に優れたものを作りあげている。結果サントレ スケルトンのコンポーネント配置は、論理的で美しいものとなっている。すべてはミニッツトラック型の上部ブリッジ(裏蓋から見える部分。時計技師にとって、ムーブメントの裏側から見える部分が上部であることをお忘れなく)と、文字盤を兼ねた地板によって固定されている。ゼンマイ香箱が上部の主な要素で、中央にメインのムーブメントと針、6時位置にテンプを配している。これはコルム ゴールデンブリッジやJLCのCal.101などのムーブメントに見られるのと同じ、直列構造である。文字盤のエレメントをムーブメント構造と一体化させることは、カルティエのモダンなオープンワークウォッチのトレードマークでもある(例えば、タンク MC スケルトンは、ダイヤル側のムーブメントプレートの12、3、6、9時位置がそれぞれローマ数字の形をしている)。

表側のゼンマイ香箱と文字盤。


手前は巻き上げや時刻合わせを担うキーレス部分。


テンプとヒゲゼンマイ、レバー、ガンギ車は、テンプ右側にある独立したハの字型のブリッジの下にある。

ケースサイズは縦46.3mm×横23mm×厚さ7.96mmとかなり縦長だが、湾曲されたケースとムーブメントのおかげで装着性はかなり高い。最初の取材でお伝えしたようにサントレ スケルトンは、ここで掲載しているピンクゴールド、プラチナ、プラチナ&ダイヤモンドの3種類で用意される(PGとプラチナがそれぞれ100本、ダイヤモンドセットが25本だ)。PGモデルの価格は6万1000ドル(編集注記:当時の販売価格は税込712万8000円)とかなり高価だが、カルティエのより高級なオープンワークタンク(サファイア スケルトン製)の価格とほぼ同じである。最終的な価格設定には多くの要素が絡んでいるが、250本の時計にしか使用されない、単一モデル専用ムーブメントにプレミアを期待するのは妥当だろう。

ご覧のように、ラグからラグまでのサイズが46.3mmであるにもかかわらず、手首の上では非常にエレガントな印象を与えてくれる。もちろん、過去100年間に製造されたわずか4本のオープンワークタンクのうちのひとつを着用するという楽しみ方もある(これが事実であることに驚かされるが、カルティエには確認済みだ)。本作、オープンワークのクラッシュ、そしてタンク サファイア スケルトン、この3本をローテーションで持っていたら、超高価だが楽しめるだろう。

ゼニス クロノマスター オリジナル 1969に、ブラックダイヤルの新作“イービル” エル・プリメロを追加

ゼニスはステンレススティール製の初代エル・プリメロ A386をクロノマスター オリジナルとして復活させた。シルバーの3色ダイヤル、38mm径、4時30分位置のデイト窓、そしてもっとも大きな特徴である自動巻きエル・プリメロキャリバーを搭載したクロノマスター オリジナルは、ゼニスのレギュラーカタログのなかでもっとも忠実にオリジナルのエル・プリメロを再現している。これは初の自動巻きクロノグラフに敬意を表したものである。

数カ月前、ゼニスはエル・プリメロに初めてブラックの3色ダイヤルを導入した。伝統的なシルバーダイヤルに対応するブラックダイヤルの“イービル” エル・プリメロであり、まるで昔から存在していたかのようにも見える時計だ。確かに“単なる新ダイヤル”なのだが、クロノマスター オリジナルの堅実なアップデートでもあり、この発表を受けて私はエル・プリメロと時間を過ごし、競合するクロノグラフのなかでエル・プリメロがどのような位置にあるかを考える機会を得た。

新しいクロノマスター オリジナルは、私たちがよく知っている既存のエル・プリメロのスペックを受け継ぎ、伝統的な3色のインダイヤルにブラックダイヤルを追加しただけのモデルだ。私にとって、エル・プリメロのケースは手首にフラットに装着でき、手首に強い存在感を与えるものだ。ひとつ問題があるとすれば、特に手首の中心からずれている場合、すぐに手首からラグがはみ出してしまうことだ。

ダイヤルはマットなブラックで、クロノマスター オリジナルのラインが持つ正統派の美学を忠実に再現している。現代的なクロノマスター スポーツのラッカー仕上げのブラックよりも光沢が抑えられている。3色のインダイヤルがブラックを引き立てており、この組み合わせは2023年よりも前に試すべきだったかもしれないと思うほど見事だ。ゼニスは賢明にも、4時30分のデイト窓をブラックのディスクで統一した。我々は4時30分のデイト窓を非難するのが大好きだが、エル・プリメロはA386に忠実にデイトが配置されているため、これから先も決して批判されることはないだろう。好むと好まざるとにかかわらず、エル・プリメロには歴史があるのだ。

クロノマスター オリジナルは、ゼニスが2021年にクロノマスター スポーツで本格採用した自動巻きキャリバー、エル・プリメロ 3600を搭載している。この時計が特別な存在であることを示唆するタキメーターは1/10秒刻みで表示されており、クロノグラフ針は10秒に1度ダイヤルを1周する。タキメーターの目盛りひとつひとつが、10分の1秒を表しているのだ。これを弄るのは楽しいし、理論的には物事の時間を超正確に計ることができる。これは私がクロノグラフを作動させている動画だ。

私が愛を込めて“イービル” エル・プリメロと名付けたのは、白ダイヤルをいっそう引き立てる黒ダイヤルのユニバーサル・ジェネーブ、とりわけニーナリント・コンパックスに対するイービル・ニーナ、そしてエリック・クラプトンに対するイービル・クラプトン・トリコンパックスを思い起こさせるからだ。ユニバーサル・ジュネーブはカタログ上で、これらの時計を並べて掲載していた。3色のインダイヤルを持つイービル エル・プリメロをゼニスはこれまでに提供したことはなかったが、今回のリリースはその可能性がかつてあったかのように感じさせる。

クロノマスター オリジナルの希望小売価格は、カーフスキンのレザーストラップが115万5000円、3連リンクのスティール製ブレスレットが125万4000円(ともに税込)となっている。3連のブレスレットは中ゴマがポリッシュ仕上げになっており、つけ心地もとてもいいが、特にクラスプには改良の余地がある。十分快適なブレスレットだが、クロノマスター オリジナルのようなヴィンテージ風の時計には大型の競合メーカーから明確なインスピレーションを得たものではなく、同じようにヴィンテージ風のブレスレットがあってもよかったかもしれない。

クロノマスター オリジナルのクラスプとブレスレットは違和感なく装着できるが、この時計のヴィンテージ風の雰囲気にはそぐわない。

クロノマスター オリジナルのラインナップに加わったこのモデルは、これまで我々が求めてやまなかったエル・プリメロであり、完璧ではないもののゼニスのカタログに加わった素晴らしいモデルである。ゼニスは2023年、パイロットコレクションのアップデートを行うなど近代化を進めているが、ゼニスが歴史に裏打ちされた機能をダブルダウンさせているのを見るのも素晴らしいことだ。ゼニスが2021年に発表したシルバーの3色ダイヤルや逆パンダダイヤルと並び、エル・プリメロの選択肢のなかで中核的なコレクションになっている。一方、クロノマスター スポーツは、スーザン・G・コーメン財団を支援する最近の限定版クロノマスター スポーツ ピンクなどのように、現代的なカラーと相性のいいモダンなクロノグラフのオプションを提供している。

“イービル” エル・プリメロに対するコレクターの意見
クロノマスター オリジナルを私の16cm周りの手首に装着。

私は新しいエル・プリメロについて、本物のヴィンテージコレクターの意見を聞きたいと思った。そこでヴィンテージ ゼニスのコレクターであり、Tortoise Watchesとして貴重な時計を販売している友人のアーウィンド・ジャンド(Arwind Jhand)氏に連絡を取った。

「1969年当時のダイヤルをほうふつとさせる、オールドスタイルのフォントが使われている点が気に入っています。“36,000 VpH”が3行目に追加されていなければなおよかったのですが。クロノグラフのダイヤルに文字を追加してよりテクニカルに見せたいというブランドの気持ちはわかりますが、一部の時計マニアは別として、誰が数字が示すものによって過小評価するのでしょうか?」。12時位置に“Zenith”と“El Primero”だけを配したシンプルさもあって、彼は2019年に発表されたゼニス × フィリップスの限定コラボモデルを現代における最高の復刻ダイヤルとして挙げた。

オリジナルのA386にも“Automatic”と“Chronograph”という余計な3、4行目の文字があった。デイトナの領域まで踏み込んでいるようでもあるが、ここはジャンド氏に同意せざるを得ない。基本的に、近ごろの時計のダイヤルは文字が少ないほうが望ましい。

最後にジャンド氏は、マットなブラックダイヤルは80年代のチタン製ポートロイヤル(Ref.95.0102.418)を思い出させると付け加えた(ちなみに、ゼニスのヴィンテージリファレンスは過小評価されている)。

クロノグラフ業界における競争

最近、私はタグ・ホイヤーのカレラ“グラスボックス”と1週間をすごした。クラシカルな雰囲気が漂い、39mm径で希望小売価格80万8500円(税込)というこのモデルは、その記事で紹介したほかの低価格で伝統を感じさせるクロノグラフの数々と同様に、クロノマスター オリジナルに代わる確かな選択肢である。もちろん、そのどれもが「ムーンウォッチを買えばいいだけだ」というありきたりな意見と競合する。タグ・ホイヤーのCal.TH20-00やブライトリングのCal.B01のような競合メーカーの自社キャリバーがパワフルなスペックを提供する一方で、エル・プリメロ 3600はつい2年前に発売されたときよりも競争が激化しているとはいえ、その馬力と血統を色濃く受け継いでいる。新しいクロノマスター オリジナルと数日間過ごした後も、そのクロノグラフ針が10秒ごとにダイヤルを高速で動き回るのを見る純粋な喜びは尽きることがなかった。

A386のように最先端の時計製造とクラシカルな外観が融合しているモデルがあるからこそ、私は何度でもエル・プリメロを求めるのだ。

ゼニス クロノマスター オリジナル 1969(Ref.03.3200.3600/22.M3200、03.3200.3600/22.C908)。ケース径38mm、厚さ13mm(ラグトゥラグは47mm)、1/10秒計測クロノグラフ、60時間パワーリザーブの自動巻きキャリバー、エル・プリメロ3600を搭載。希望小売価格は、レザーストラップ115万5000円、ブレスレット125万4000円(ともに税込)。詳細はゼニスのWebサイトでクロノマスター オリジナル 1969を参照。

カルティエ タンクが初めて発表されて以来、何年にもわたって実にさまざまなバリエーションやサブバリエーションが誕生したが、。

カルティエは、長年にわたりオープンワーク仕様の懐中時計・腕時計を膨大な数販売してきたが、オープンワークのタンクの登場は、2004年に発表されたタンク ルイ カルティエ ノクタンビュール(コレクション・プリヴェ・カルティエ・パリ、通称CPCPの一部)までなかった。その後、2013年にタンク MC スケルトン、2014年にはタンク LC サファイア スケルトンが発表され、いずれも高い評価を得て大成功を収めている(その年にはアイコニックなクラッシュのスケルトンバージョンも加わり、同様に評論家のあいだで話題となったが、もちろんそれはタンクではない)。タンクの誕生100周年を記念して、かなりの数の新作が発表されているなか、今回は1921年にカルティエが初めて販売したタンクの初期モデル、タンク サントレ初となるスケルトンバージョンを紹介しよう。

タンク サントレ スケルトンは、史上3番目となるオープンワークムーブメントを搭載したタンクである。

ADVERTISEMENT

タンク サントレは長年にわたり、いくつかの異なるバリエーションを発表してきたが、これまでにその超劇的に細長いケース(“サントレ”とは、曲がっている、または湾曲したという意)にオープンワークキャリバーを収めたことはなかった。その理由はおそらく、美しい外観の効果を得るために、ケースによくフィットし、ケースの湾曲に沿う長方形のムーブメントが本当に必要だったからだろう。それ以前のモデルでは、おそらく丸型ムーブメント、またはムーブメントサプライヤーによる既存のストックから作成された、標準的なレクタンギュラー型またはトノー型ムーブメントを用いていたのだろう。このような極端なムーブメント形状は、どのムーブメントサプライヤーのカタログにも含まれていなかっただろうし、ひとつの時計のために生産するには、おそらく法外的に高価だったと思われる。しかし新しいタンク サントレ スケルトンは、この目的のために特別に意図されたムーブメントを搭載しており、供給キャリバーよりもはるかに満足のいく結果を得ることができた。“サントレ”とは曲がった、湾曲したという意味で、ケース形状のことを指している。1920年代のサントレのオリジナルバージョンでは、7、8、9リーニュのムーブメントを搭載した比較的長いモデル、もしくは小振り(最も長いケース寸法を越えて)なモデルに対応する、いくつかの異なるムーブメント径が用意されていた(なお、リーニュとは伝統的な時計製造における単位のことを指す。1リーニュは約2.2558mmに相当し、この単位は現代の時計製造、そしてボタンやリボン作りにも生かされていた)。またヴィンテージサントレには、非常に特徴的なミニッツトラックがあった。ヴィンテージのカルティエ タンク サントレ、1921年製。

ミニッツトラックは基本的に改良された長方形だ。写真のようにオープンワーク加工されたサントレ(Cal.9917 MC)のために製造されたムーブメントは、このミニッツトラックを手巻きムーブメントの構造基盤として使用している。

一般的に、カルティエはオープンワークムーブメントをカスタム(クラッシュのスケルトンバージョンは、私が今まで見た腕時計のなかで最も魅惑的なもののひとつである)して、デザイン的に優れたものを作りあげている。結果サントレ スケルトンのコンポーネント配置は、論理的で美しいものとなっている。すべてはミニッツトラック型の上部ブリッジ(裏蓋から見える部分。時計技師にとって、ムーブメントの裏側から見える部分が上部であることをお忘れなく)と、文字盤を兼ねた地板によって固定されている。ゼンマイ香箱が上部の主な要素で、中央にメインのムーブメントと針、6時位置にテンプを配している。これはコルム ゴールデンブリッジやJLCのCal.101などのムーブメントに見られるのと同じ、直列構造である。文字盤のエレメントをムーブメント構造と一体化させることは、カルティエのモダンなオープンワークウォッチのトレードマークでもある(例えば、タンク MC スケルトンは、ダイヤル側のムーブメントプレートの12、3、6、9時位置がそれぞれローマ数字の形をしている)。

表側のゼンマイ香箱と文字盤。手前は巻き上げや時刻合わせを担うキーレス部分。テンプとヒゲゼンマイ、レバー、ガンギ車は、テンプ右側にある独立したハの字型のブリッジの下にある。

ケースサイズは縦46.3mm×横23mm×厚さ7.96mmとかなり縦長だが、湾曲されたケースとムーブメントのおかげで装着性はかなり高い。最初の取材でお伝えしたようにサントレ スケルトンは、ここで掲載しているピンクゴールド、プラチナ、プラチナ&ダイヤモンドの3種類で用意される(PGとプラチナがそれぞれ100本、ダイヤモンドセットが25本だ)。PGモデルの価格は6万1000ドル(編集注記:当時の販売価格は税込712万8000円)とかなり高価だが、カルティエのより高級なオープンワークタンク(サファイア スケルトン製)の価格とほぼ同じである。最終的な価格設定には多くの要素が絡んでいるが、250本の時計にしか使用されない、単一モデル専用ムーブメントにプレミアを期待するのは妥当だろう。

ご覧のように、ラグからラグまでのサイズが46.3mmであるにもかかわらず、手首の上では非常にエレガントな印象を与えてくれる。もちろん、過去100年間に製造されたわずか4本のオープンワークタンクのうちのひとつを着用するという楽しみ方もある(これが事実であることに驚かされるが、カルティエには確認済みだ)。本作、オープンワークのクラッシュ、そしてタンク サファイア スケルトン、この3本をローテーションで持っていたら、超高価だが楽しめるだろう。

タンクの詳細はカルティエ公式ウェブサイトをチェックだ。

本記事の以前のバージョンでは、最初にスケルトン化されたタンクが、“タンク MC スケルトン”であると誤って記述されていた。カルティエの著名なコレクターであり専門家であるジョージ・クレイマー(George Cramer)氏の計らいにより、2004年に発表された“タンク ルイ カルティエ ノクタンビュール”こそが最初のスケルトンモデルであると、メールで教えてくれた。

ロレックスの最高峰に立つ、3・6・9インデックスを備えたエクスクルーシブなサブマリーナー。

いつしか時計オークションの中心的存在として注目されるようになったヴィンテージロレックス。

デイトナほどではないにせよ、サブマリーナーにおいても、ごくまれに例外的なモデルが出品されることがある。オークション史上最も高値をつけたサブマリーナーは、2018年6月、クリスティーズの時計オークションに出品された、エクスプローラーをほうふつとさせる3・6・9のアラビアインデックスダイヤルのRef.6538だ。重要なパーツであるベゼルがなく、さらにダイヤルの劣化も激しく、お世辞にも褒められるコンディションではなかったにもかかわらず、106万8500ドル(当時の日本円で約1億1860万円)という脅威的な記録を残した。

“億”超えを果たしたエクスプローラーダイヤルのRef.6538

2018年の1月に開催されたクリスティーズオークションで106万8500ドル(当時の日本円で約1億1860万円)という落札価格をマークした3・6・9のアラビアンインデックスダイヤルのRef.6538。©️Christies

ヴィンテージロレックスに明るい方ならご存じだと思うが、Ref.6538といえば、映画『007』シリーズで初代ジェームス・ボンドがタキシードに合わせていた(と目されている)、通称“ボンドサブ”と呼ばれるコレクターズアイテムである。このモデルは1955~59年頃に製造されたという説が有力で、フランス語で特許を意味する“BREVET”が入る8mm径のリューズをはじめ、サブマリーナーが作り出した特徴的なディテールを散見できる。実際にダイビングで使われた個体が多いことや、夜光塗料にラジウムを使用していたケースが多いため、コンディションのいい個体を探し出すことは困難を極めるものの、市場での価格については仮に状態が悪かったとしても少なく見積もっても2000万円はくだらない。

そんなRef.6538のダイヤルバリエーションのひとつに、エクスプローラーと酷似した3・6・9のインデックスを持つダイヤルが存在する。オンライン上で目にすることは可能かもしれないが、実機を手に取ること、ましてや商談までたどり着くことは、いまやほぼ不可能に近いモデルとしてコレクターに知られている。サブマリーナーのコレクターは世界中に大勢いるわけだが、それゆえこのモデルを所有するオーナーはごくわずか。だからこそ、クリスティーズのオークションで1億超えという記録が生まれたのである。

Ref.6200を中心にしたエクスプローラーダイヤルの勢力図

エクスプローラーダイヤルを持つRef.6200。2013年11月に開催されたオークションで、48万5000スイスフラン(当時の日本円で約5190万円)で落札された。©️Christies

そもそもエクスプローラーダイヤルを備えたサブマリーナーとは、一体どんな背景や価値を持つモデルなのか? 謎の多いモデルであるため、諸説を交えて概要を紹介しておこう。

該当するモデルはいくつかあるが、最も有名なのは“キング・オブ・サブマリーナー”と呼ばれるRef.6200だろう。製造期間は1954~55年で、300本ほど製造されたと噂されている。そのすべてがエクスプローラーダイヤルであることに加えて、8mm径のリューズを初採用し、サブマリーナー史上初めて200m防水を実現したモデルとしても知られており、ダイヤルは5種類近いバリエーションがある。

こちらはエクスプローラーダイヤルのRef.5513。2023年5月のオークションで、5万6700スイスフラン(当時の日本円で約870万円)で落札された。

このほか1950年代のサブマリーナーでは、Ref.6538と5510でも一部の個体でエクスプローラーダイヤルが確認されているが、特に後者は幻級のレアさを誇るという。1960年代前半に製造されたRef.5512や5513のエクスプローラーダイヤルも大変魅力的なコレクターズアイテムだ。どちらもさまざまなダイヤルのバリエーションがある。エクスプローラーダイヤルであることに加えて、夜光塗料にトリチウムを使用した証だとされる“アンダーバー”の表記や“PCG(ポインテッドクラウンガード)”と呼ばれるリューズガードなど、この時代ならでは魅力的なディテールを備えている。どちらも希少性は非常に高く、並のポール・ニューマンモデルの比ではない。それゆえ“サブマリーナーの終着点”にあたるコレクションとして探し続けているコレクターは多い。

国内のメガコレクターが所有する驚愕のRef.6538

いよいよ本題に入ろう。ここで紹介するRef.6538は、日本有数のヴィンテージロレックスのメガコレクターが所有するコレクションであり、あらゆる点で前述のRef.6538を上回る、まさに奇跡のような1本だ。この個体を販売した国内有数のヴィンテージウォッチ専門店リベルタスのスタッフ、中嶋琢也氏は次のように語る。

「普通のボンドサブなら世界中探せば見つかると思いますが、エクスプローラーダイヤルとなるとまったく話が違ってきます。Ref.6538のエクスプローラーダイヤルは、Ref.6200やRef.5510と違い、防水表記がレッドで記されている(レッドデプスと呼ばれる)ため、瞬時に見分けられます。数年前、香港と国内の有力コレクター数名が当店に集まる機会がありました。そのときもRef.6200は見ることができましたが、Ref.6538のエクスプローラーダイヤルは誰も持っていませんでした。ちなみに該当するすべてのリファレンスを含めて、これまでにうちが扱ったエクスプローラーダイヤルのサブマリーナーは10本にも満たないと思います。この個体はコンディションのよくないものが多いサブマリーナーのなかでは上々の状態だと思います。もともと、この個体は国内のコレクターから出てきたものですが、当時の時点でポール・ニューマンモデルよりも遥かに高価でした。その価格に驚いたコレクターが多かったことをよく覚えています。それでもオーナーの背中を押して紹介した理由は、この機会を逃すと買えないモデルだったからです。例えば、手巻きデイトナなら資金力があれば、ある程度のコレクションを揃えることは可能だと思いますが、サブマリーナーのコレクターズアイテムとなると本当に数が少ないため、収集の難易度がまったく違います。しかもRef.6538のエクスプローラーダイヤルになると、その希少性はトップクラスですね」。

中嶋氏の話からも察するに、世界のどこかにまだ見ぬRef.6538のエクスプローラーダイヤルが眠っているのかもしれない。ただし、その頂まで登ることは、世界的なコレクターでさえ諦めざる得ないほどハードルが高いことは確かなようだ。

エクスプローラーダイヤルが持つ独自性
多くのヴィンテージロレックスのコレクターにとって、エクスプローラーダイヤルのサブマリーナーは憧れ以外の何物でもない。つまるところ、その魅力の本質はどこにあるのだろうか。中嶋氏は言う。

「サブマリーナーに限らず、ロレックスのマーケティングはずば抜けていて、いつの時代も他社をリードしてきました。そして、どのモデルも新しい時代を創ろうというエネルギーが満ち溢れてるように思えます。サブマリーナーも然りで、シンプルなドレスウォッチが主流だった1950年代に、スポーツウォッチ、しかもどこにもない独自のデザインを生み出したことには先見性が感じられますよね。最大のマーケットであった北米を中心に、出荷国ごとに時計のデザインをアレンジしていたこともロレックスの見事な戦略でした。 ロレックスの3・6・9のダイヤルはどれも人気があります。真相は定かではありませんが、エクスプローラーダイヤルはイギリスでとても人気があって出荷されていたと言われています。エアキングのRef.5500のエクスプローラーダイヤルはその典型例ですし、Ref.5512やRef.5513のエクスプローラーダイヤルもこの流れを汲むモデルだという説が有力です。このようなバックストーリーもおもしろいですが、エクスプローラーダイヤルのサブマリーナーの魅力は、その希少性の高さはもちろんのこと、独自性のあるデザインに集約されていると思います。だからこそ多くのコレクターが魅了されるのではないでしょうか?」

かつては希少なヴィンテージロレックスの多くが集まっていた日本のヴィンテージマーケット。現在、そのような時計の多くは海外のコレクターが所有していることが多いが、日本国内のコレクターのなかにも、海外勢に負けず劣らずの希少な逸品を所有しているオーナーは少なくない。実はほかにも希少なヴィンテージロレックスを撮影しているが、それはまた別の機会に紹介しよう。

これはベル&ロスが“未来に向けた時計づくり”を目指した最新モデルだ。

視認性、機能性、防水性、高精度の4つの基本理念を掲げるベル&ロスから、ブランドの代表作とも言えるBR 03シリーズをベースにした限定スケルトンモデルが登場した。本作は、一目でベル&ロスとわかる特徴的なスクエアケースをファセット加工し、文字盤とムーブメントの主要部分を立体的にスケルトナイズしているのがポイントだ。

新作は、敵からのレーダーに探知されないよう設計されたステルス航空機をもとにしている。ステルスの“見えないものを見る”というコンセプトをさらに推し進めるべく、文字盤をスケルトンにし、またキャリバーには目を見張るような3Dスケルトン加工を施した。

42×43.7mmのマットブラックカラーのケースは、高い耐傷性を持つセラミック製。針、リューズ、ベルトに至るまですべてブラックで統一し、マッシブな仕上がりにしている。ケース内にはベル&ロス自社製の自動巻きBR-CAL.383を収め、199万1000円(税込)で提供される。

ファースト・インプレッション

この新作は“サイバーシリーズ”に属すると言えば、マニアはピンとくるだろうか? 2020年に投入された同シリーズは、立体的なスカルを文字盤全面に配した、大胆でアヴァンギャルドな限定生産モデルを展開している。これまでに計8本のスカルモデルが発売されているが、今回の新作にはスカルの姿はない。

しかし私は、今回のモデルを見たとき、いままでスカルの背面でクロスしていた骨だけがそのまま残ってスケルトナイズされたように感じた。スカルの面影がわずかに残っているのだと。

本作は“未来に向けた時計づくり”というビジョンのもとつくられており、人気のBR 03ラインが持つ力強さとアイデンティティはそのままに、そのアイコニックなデザインを一新するのが目的だという。その結果BR 03のデザインを、サイバーシリーズのこれまでのグラフィックと未来的なコード(スケルトン)と組み合わせることにしたと言うが、なるほど、これまでにないルックスなのに雰囲気はサイバーシリーズそのままだ。私が感じた面影はそれだった。ブランドが目指したコンセプトは成功していると思う。

未来に向けた時計づくりのもと、今後ベル&ロスからは何が発売されるのか、楽しみで仕方ない。ちなみに、ベル&ロスが目指す未来とは異なり恐縮だが、私は機能はシンプルに、デザインは派手にという精神でいるため、今後も私の精神に沿ったスカルモチーフモデルを出して欲しいところだ(たまにでいい!)。

基本情報
ブランド: ベル&ロス(Bell & Ross)
モデル名: BR 03 サイバー セラミック(BR 03 CYBER Ceramic)
型番: BR03-CYBER-CE

直径: 42×43.7mm
ケース素材: マットブラックセラミック
文字盤: スケルトン
インデックス: 風防の下にブラック 光沢処理を施したメタルインデックス
夜光: グレーのスーパールミノバ(針のみ)
防水性能: 50m
ストラップ/ブレスレット: ブラックラバーストラップ、マットブラックPVD加工のステンレス製ピンバックル

ムーブメント情報
キャリバー: BR-CAL.383
機能: 時・分
パワーリザーブ: 約48時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 25
クロノメーター: なし
追加情報: 製造ムーブメント5年保証

価格 & 発売時期
価格: 199万1000円(税込)
発売時期: 発売中
限定: あり、世界限定500本

ジン クラシックな103クロノグラフに手巻きムーブメントを載せてアップデート。

ジェームズが先日紹介したU50ダイバーズに加えて、ジャーマンウォッチブランドのジンが伝統にインスパイアされた103.St.Ty.Hd クロノグラフをリリースした。これは20年ぶりとなる手巻きの103クロノグラフである。

新しいジン 103.St.Ty.Hd クロノグラフは、直径41mm、厚さ14.8mm(ラグ幅20mm)のステンレススティール製ケースであり、200mの防水性を備えている。セリタ製SW510の手巻きキャリバーを搭載しており、2万8800振動/時で作動し、約58時間のパワーリザーブを確保している。ブラック文字盤にはアプライドインデックスが配され、伝統的な3レジスターのレイアウトと、クロノグラフ秒針のディープレッドアクセントが特徴だ。またブラックのパイロットベゼルの12時位置には夜光もあり、インナーベゼルにはタキメータースケールが刻まれている。

ジン 103.St.Ty.Hdは世界限定1000本で、価格は66万円(税込)である。

我々の考え
新しい103クロノグラフは、古典的なジンによる堅実なアップデートのように見える。ブラックのダイヤルとベゼルに対して、赤のアクセントがよく効いている。完璧な実用性を感じさせる、これこそ完璧なジンである。

サイズはパイロットウォッチに求められるものであり、大きくても圧迫感はない。またドイツのDIN規格(Deutsches InstitutfürNormung)に準拠した耐磁性と防水性など、ジンのツールウォッチが人々に愛される、すべての要素を備えている。さらにアクリル風防を採用し、昔ながらの103にオマージュを捧げている。

アップデートされたU50のラインナップと並んで、新しい103.St.Ty.Hdクロノグラフはヘリテージインスピレーションを見事に備えた時計であり、ジン愛好家が楽しめるのではないかと思う。

sinn 103 chronograph 2024
ジン 103.St.Ty.Hd。41mm径×14.8mm厚(ラグ幅20mm、ラグからラグまでは47.5mm)。ステンレススティール、200m防水。セリタ製手巻きCal.SW510M、2万8800振動/時、約58時間パワーリザーブ。世界限定1000本、希望小売価格は66万円(税込)。

時計収集の世界に長くいればいるほど、より初期に作られた時計、特に“近代”以前のモデルに興味を抱くようになる。

なぜかというと、例えばロレックス、オメガ、ホイヤーなどが1950年代から60年代にかけてはサブマリーナー、スピードマスター、カレラなどの時計をコレクションとして命名し、明確な区分を設け始めたタイミングであるからだ。しかし、これらの偉大なコレクションが登場する前に作られた時計は、存在のほとんどが知られていないだけでなく、そのピュアなデザインもまた魅力的なのだ。この記事では、フィリップスのジュネーブ・ウォッチ・オークションIIに出品されたロレックス製のコンプリケーションウォッチ全4本を紹介する。しかし、どれもサブマリーナー、GMTマスター、デイトナ、エクスプローラーの範疇には含まれない。だが、これらの時計には真の美しさが宿っている。

ロレックス Ref.3525 オイスター クロノグラフ
Rolex 3525
ロレックス Ref.3525はロレックス初の“オイスター”クロノグラフである。

 Ref.3525は、マーケットでめったにお目にかかれない時計のひとつである。本当にこの時計を理解しようとしない限り、その真価を見極めるのは難しい。Ref.3525はまた、オイスターケースに初めてクロノグラフを搭載したという点でロレックスにとって歴史的に重要な時計でもある。このリファレンスは1939年から1945年までの6年間しか製造されなかったが、フィリップスで見られるこの個体は、ここ数年で登場したイエローゴールドの時計としては間違いなく最高クラスの逸品である。

Rolex 3525
このRef.3525は、ケースに見られる見事な酸化が特徴的だ。

 おそらく新品時から研磨されていないと思われるこの時計は、ケースに深い酸化が見られる。洗浄や何らかの手入れをしてしまっていれば、この雰囲気はとっくの昔に失われていたに違いない。文字盤にプッシャー、リューズ、針、そしてオリジナルのイエローゴールドブレスレットまでもが新品同様で、さらに希少なブラックギルト文字盤が魅力を添えている。そうそう、この時計がジョン・ゴールドバーガー(John Goldberger)氏が執筆したロレックス本で紹介されていることはもう言っただろうか? そう、それほど素晴らしいものなのだ。事前につけられた予想落札価格は明らかにそのクオリティを反映している。フィリップスによれば、このRef.3525は20万スイスフランから40万スイスフラン(当時のレートで約2420万円から約4840万円)で取引されるはずだという。詳細はこちら。

 ちなみに、Ref.3525は実際に起こった“大脱走”で担った役割から、しばしば“捕虜(POW)”と称されている。

ロレックス パデローン Ref.8171 ステンレススティール製トリプルカレンダー ムーンフェイズ
Rolex 8171
スティール製のRef.8171は、世界でもっとも魅力的な時計のひとつである。

 ロレックスのフォーラムやマニュファクチュールの歴史に詳しい人たちはよく、トリプルカレンダーのムーンフェイズウォッチを復活させて欲しいと口にしている。ロレックスによるムーンフェイズ製造の歴史はそれほど長くないが、ムーンフェイズを搭載したふたつのリファレンス(ここで紹介するRef.8171と次の項目で紹介するRef.6062)は完璧に近かった。Ref.8171は、その薄型で大きなサイズ感から“パデローン”、あるいは“ビッグフライパン”と呼ばれることもある。まさに世界で最も魅力的な時計のひとつである。

Rolex 8171 Steel
これは、おそらく現存するRef.8171のなかでもっとも素晴らしい個体だろう。

 Ref.8171はスティール、ローズゴールド、イエローゴールドの3種類で展開され、総生産数はそれほど多くない。しかもスティール製はごくわずかしか存在せず、ポリッシュ仕上げが施されたり、修復されていない状態のものはほとんどない。このオーバーサイズなトリプルカレンダー ムーンフェイズの個体を熱心なコレクターにとっての“夢の時計”から“あがり時計”へと昇華させているのは、そのコンディションによるところが大きい。鮮やかなブルーのアクセントを添えた完璧なエイジングの文字盤と、シャープで鋭いケースエッジをご覧いただきたい。

Rolex 8171 Moonphase
Ref.8171は、ゴールドのムーンフェイズを備えている。

Rolex 8171 caseback
ケースバックに刻まれたロレックスの王冠にも注目。

 Ref.8171の良否を判断する方法のひとつが、裏蓋を見ることだ。裏蓋に刻まれたロレックスの王冠がまだはっきりと見える場合、その時計はあまり研磨されていないと言える。この個体では、王冠は深く刻まれており、この時計の全体的な品質を物語っている。このRef.8171の予想落札価格は35万から70万スイスフラン(当時のレートで約4235万円から約8470万円)で、スティール製ロレックスとしては高額だが、歴史、デザイン、希少性、品質を鑑みると平均的な6桁のデイトナをはるかに超える価値を持つ時計であることは間違いない。そして率直に言って、この時計はどんなデイトナよりもずっとクールだ。詳細はこちら。

 ちなみにクリスティーズは2013年12月に、同じようにポリッシュ仕上げが施されていないダイヤモンドマーカー付きのスティール製Ref.8171を114万ドル(当時のレートで約1億1230万円)以上で落札している。

ロレックス ステッリーネ Ref.6062 ピンクゴールド製トリプルカレンダー ムーンフェイズ スターダイヤル
Rolex 6062
ロレックスのRef.6062 ステッリーネは、ロレックス史上最高のデザインであると評価されている。

 上記のRef.8171の兄弟モデルであるRef.6062は、よりスタイリッシュなオイスターケースにまったく同じムーブメントとデイト表示を備えている。Ref.6062は1950年代初頭のわずか3年間しか製造されなかったが、ロレックスのデザインにおける絶対的な頂点のひとつと考えられている。

Rolex 6062
この貴重なピンクゴールドの時計は、“スターダイヤル”を備えている。

 この貴重なRef.6062は、ピンクゴールド製であること、そしてこのモデルが“ステッリーネ”と呼ばれる希少なスターダイヤルを備えていることでさらにその価値を高めている。この特別な個体は世界でもっとも完璧なヴィンテージ ロレックスのひとつであり、この個体は2004年以来、世界最高のコレクターによって暗い金庫にひっそりとしまわれてきた。それ以前は、この時計は最初の購入者の家族のもとでめったに使われない状態で保管されていた。

Rolex 6062
この非常に希少な時計には、オリジナルのピンクゴールド製ブレスレットも付属している。

 このステッリーネには、ケースとお揃いのピンクゴールドのブレスレットが付属している。このようなクオリティの時計は間違いなく高値で取引される。そう、ご想像のとおりだ。このピンクゴールド製Ref.6062 スターダイヤルの予想落札価格は50万から100万スイスフラン(当時のレートで約6050万円から約1億2100万円)で、スティール製のRef.8171よりもさらに高い。この素晴らしい時計の詳細はこちら。

 ちなみに地球上でもっとも魅力的な時計のひとつにSS製のRef.6062がある。2015年12月のHODINKEEコレクターズサミットで講演するジェイソン・シンガー(Jason Singer)氏とのTalking Watchesで、その一例が紹介されている。

ロレックス Ref.2737 レギュレーター ノンオイスター クロノグラフ
Rolex 2737
Ref.2737は珍しい非オイスターケースのクロノグラフで、レギュレーターを配したレイアウトのブラック文字盤が特徴的だ。

 Ref.3525のようにデイトナではないオイスター クロノグラフや、Ref.8171やRef.6062のようなトリプルカレンダー ムーンフェイズは、現在のロレックスにとっても十分に実現可能なものと思われる。だが、レギュレーター クロノグラフは今後もお目にかかることはないだろう。実際のところ、たいていの人々は、そもそもロレックスがレギュレーター クロノグラフを製造していなかったと考えているはずだ。しかしロレックスはそれを作り、ここにこうして存在している。Ref.2737は非常に希少な時計で、わずか12本しか作られなかったと思われる。この時計は1938年のもので、ヴィンテージ ロレックスの世界においては本当に特別なものだ。ここに見られるほかの初期ロレックスの時計と比較すると落札予想価格はやや控えめで、7万から10万スイスフラン(当時のレートで約847万円から約1210万円)である。ロレックスのこの見事なレギュレーター クロノグラフの詳細はこちら。

 ちなみに、ロレックスが早くからレギュレーターウォッチを発表していたのに対し、パテック フィリップは最近発表されたRef.5235Gまでレギュレーターモデルを発表していなかった。

最終的な感想
 私がこのような特別なロレックスのリストを作成したのは、Ref.6062のような時計を私が本当に大好きだからというだけでなく、ほかにどのような時計があるのかを紹介するためでもある。サブマリーナー、デイトナ、デイデイト、そして前世紀後半に作られたほかの時計が注目を浴びているからこそ、オイスターケースのスポーツウォッチよりも遥かに希少で美しいこれら初期の時計について、コレクターが十分な見識を得るためには長い年月を要することが多い。私たちにも責任はあるが、このような話をきっかけとして、より多くの人々に初期のモデルの素晴らしさに目を向けてもらえるのであればそれは大きな収穫だと思う。

パルマのアンティークフェアで見つけたお気に入りの時計たち。

あらゆるジャンルのコレクターが集まる大規模なものだ。もちろん、時計もその期待に違わぬものだった。

先週、ヨーロッパでの仕事の合間を縫って休暇を取っていたはずの私は、イタリア時計界からのサイレンのような呼び出しに抗えずミラノからパルマまで足を伸ばしていた。最終的には日を変えて、鉄道で計2回往復することになった。すでにご存じのように、私は時計に関することについては“消極的”だ。だが、イタリアのコレクターたちと一緒にいると何か心を動かされるものがある。

スーパーコピー時計 代引きしかし、なぜパルマなのか? 生ハムを食べるため(だけ)ではない。年に2回、人口20万人ほどの郊外の街にある巨大で広大なコンベンションセンターで“メルカンテ・イン・フィエラ(Mercante in Fiera)”が開催されているのだ。“パルマの見本市”と聞いて、私は間違ったイメージを持っていた。趣のある、少し老朽化したレンガ造りの建物に、小さなブースと数件の小売店が並んでいるだけだと思っていたのだ。だが、実際はそうではなかった。イタリアの国内外から時計だけでなく、アンティーク、家具、美術品など、何万人ものコレクターがこのフェアに集結し、売買やトレードで掘り出しものを1週間以上かけて狙っているのだ。

ここ数年で見本市における時計の価格は高騰してきているが、それでもまだいくつか良品が売りに出されているのを見たりもするし、(むしろ)来場者の手首に巻かれていたりする。本当は、ここで仕事をするつもりはなかった。しかし念のためにと、カメラを持ってきていた。そして、そう、私はこの下の写真の男性にせがまれて、このPhoto Reportを書くことになったのだ。彼に時計の写真を撮れと言われれば、私は写真を撮るのだ。

パルマのツアーガイドをしてくれた、ジョン・ゴールドバーガー(John Goldberger)氏。

彼はホワイトゴールド製のブレスレット付きオメガ コンステレーションを着用していたが、このモデルはよく見かけるメガクォーツ式ではない。珍しいことに機械式だ。
 その(撮影)プロセスは、まずゴールドバーガー氏が時計を手に取り、親指でクリスタルを掃除し、手のひらの上で重さを量り、時計を傾けて合格かどうかを確認してから、私に手渡すというものだった。そのうち、その工程を自分でやるようになった。会場には何十本ものデイトナに加え、あるケースのなかには4、5本のポール・ニューマンがあり、そしてたくさんのデイデイトと、そのほかにもありとあらゆる名機が存在していた。私が見つけたのは以下のとおりだ。

このマセイ・ティソ タイプ20 “ビッグアイ”は、ディーラーでありヴィンテージハンターでもあるアンジェロ・ガラミン(Angelo Gallamin)氏の私物だ。彼は10年以上前にeBayで厳しい戦いを強いられたと話してくれた。なお、売りものではない。

ブラウンダイヤルといえば、これは私のカメラで撮影していない(iPhoneで撮影した画質の悪い)2枚の時計画像のうちの1枚だ。ブラウンステラ文字盤と全面フィレンツェ仕上げのケースを持つ1962年製ロレックス Ref.1807で、リッチョーネのダニエーレ・マルマレーリ(Daniele Marmanelli)氏の店に展示されていた。私が撮影したときにはすでに売約済みだった。

私が昔から好きな時計のひとつ、UAE(アラブ首長国連邦)の防衛省のために作られたゴールドのロレックス Ref.1675。これも、マルマレーリ氏のものだ。

ロレックスのブラウンダイヤルをもう1本。こちらは、テンパス(Tempus)のエルヴィオ・ピヴァ(Elvio Piva)氏によるイエローゴールドのロレックス “テキサン”(イタリアでは“テキサノ”と呼ぶ)ことRef.5100だ。彼に関する記事はまた追って。

この時代に見られた奇妙な形の時計といえば、IWCのRef.9212がある。バーク仕上げにダイヤモンド、そして赤いハンジャールを備えたこの時計は、オマーンのスルタンのために作られたものだ。ノーチラスウォッチズが販売していた。

会場にはユニバーサル・ジュネーブ愛好家が大集結していた。ここにあるのは、あるコレクターが着用していたスクエアとサークルが融合した極めて興味深いマイクロローター搭載のホワイトゴールド製UGだ。非常に珍しく、私の記憶ではおそらくほかに例がない。

珍しいユニバーサル・ジュネーブをもう1本。個人コレクターが持っていたディスコ ヴォランテ コンピュール クロノグラフ。

テンパスのエルヴィオ・ピヴァ氏が持っていた別の時計もお見せしよう。こちらはジェラルド・ジェンタによるプッシュボタン式のプラチナ製ミニッツリピーターだ。ブレスレットのデザインが実に興味深い。

エルヴィオ氏最後の1本は、ギルトダイヤルのロレックス サブマリーナー Ref.5513だ。この時計はおもしろい出自を持つ。この時計はスウェーデン軍の元隊員のもので、第1次国際連合緊急軍に派遣された際に着用していたものだという。箱と書類、そしてその出所を証明する資料の束に加え、時計には勲章と、彼が派遣中に着用していた国連帽が付属している。

軍用時計といえば、アメリカ海軍のために製造され、クロノグラフを搭載しているにもかかわらず“ポールルーターサブ”と記載されたユニークな“スペースコンパックス”のプロトタイプを。世界でも指折りのユニバーサル・ジュネーブコレクターがついに入手したのだという。

ヴィンテージ市場において最古参のディーラーのひとりであるジェフ・ハリス(Jeff Harris)氏が、ドバイからパルマの駅まで迎えに来てくれた。彼はパテックのRef.3970R(わからない人のために説明しておくと、ローズゴールド製だ)を着用していた。

以前に休暇を利用して、ルガーノにあるザ・ウォッチブティック(The Watch Boutique)のひとつにアレッシオ・ゼンガ(Alessio Zenga)氏を訪ねて行ったことがあった。彼らは今回のフェアで、過小評価されているロレックスのクロノグラフのひとつであるRef.3055(“ピッコリーノ(Piccolino)”、または“ザ・リトルワン(The Little One)”と呼ばれる)を展示していた。そのサイズはわずか30mmだ(素晴らしい)。

最後に紹介するのは、今回のフェアで私がもっとも気に入り、価格がもっと安ければ買っていたであろう時計だ。スティールタイム(Steel Time)が出していたのは、ムーブメントにバルジュー71を搭載した18Kピンクゴールド製のレオニダスで、文字盤はブラックだった。ゴールドであしらわれた書体は、驚くほど美しかった。直径38.5mmと大きめで、パテックのRef.5970のケースにRef.5070風の文字盤を掛け合わせたような時計だった。

次の週末に訪れた際、ゴールドバーガー氏は数十年前に父親のために買ったというイエローゴールドのレオニダスを持参して見せてくれた。父親が一度も着用しなかったことから、ほとんど新品に近い手つかずの状態なのだという。

タイメックスグループ、タイメックス部門の新プレジデント、

タイミングが合わず、マルコ・ザンビアンキ氏への取材は実現しなかったが、ジョルジオ・ガリ S1 オートマチック、そしてジョルジオ・ガリ S2 オートマチックを手がけ、これまでの安価なカジュアルウォッチというイメージとはひと味異なる、新たなタイメックスの魅力を打ち出すジョルジオ・ガリ氏にインタビューすることができた。時計デザインにおける知られざるバックストーリーや、時計業界に大きなインパクトを与えるかもしれない現在進行中のプロジェクトについても話を聞いた。

ジョルジオさんがタイメックスグループに参加されてからの経歴を教えてください。

正確には1994年からタイメックスとは繋がりがありました。1994年にベネトンの持ち株会社だった21 インベスト(21 Investimenti)と協力して、時計やインダストリアル、プロダクトデザインなどを手がける会社を設立したのですが、90年代に人気だったベネトンウォッチは実を言うとタイメックスグループで作られていたんですよ。

 タイメックスグループに参画し始めたのは1996年ですね。といってもタイメックスブランドではなく、グループのライセンスブランド、ノーティカ(NAUTICA)の時計に携わるようになったのが最初です。その後、ヴェルサーチェなどほかのライセンスブランドの時計デザインにも参画して、2001年にコンサルタントとしてタイメックスに携わり始めました。

 ですから、すぐにタイメックスをやり始めたというわけではなく、ライセンスブランドからスタートして、たくさんの時計をデザインしましたね。2007年半ばには自分のデザイン会社をタイメックスに売却して、タイメックスデザインセンター/ジョルジオ・ガリ デザインラボ(Timex Design Center/Giorgio Galli Design Lab)という名前のデザインハウスを立ち上げるという形で、タイメックスのクリエイティブディレクターになりました。

佐藤
タイメックスに参加してデザインした代表作、特に思い入れのある時計はありますか?
ジョルジオ
 それはとても難しい質問ですね。もちろん過去にたくさんの時計をデザインしてきましたが、長年携わるあいだに常に進化していくもので、過去のことは過去のこと。私としては常にいま出しているもの、現在の最新デザインが自分の代表作だという気持ちで仕事をしています。

 答えになっているか分かりませんが、これがタイメックスだと言えるような何かを作りたいとは思っています。歴史や、そのなかで埃を被ってしまっているような部分をキレイに整えて、ブランドのコアとなるもの、ブランドを次のステップ、レベルに引き上げるためのコンセプトを常に考えています。本来ブランドが持ってる価値に焦点が当たるスイートスポットを見つけ出して、それを磨き上げるようなことをやっていきたいのです。でもそれは懐古主義ということではなく、ブランドの持つ価値を新しい視点で解釈し、新しいものを作り上げて、それをお客様に伝えていくということを意識しています。
 

佐藤
ジョルジオ・ガリ S1 オートマチックや、S2 オートマチックなど、近年はハイエンドなラインナップを拡大しようという意図が感じられますが、それはなぜですか?
ジョルジオ
 最近はそうした商品も出していますが、ブランドのコアはこれまでと同じで、高品質で求めやすい価格の時計を提供するというところはまったく変わっていません。やはりそこがブランドのDNA、ベースであるということはとても大切なことなのです。タイメックスのバックグウンドとして、例えば“ダラーウォッチ”のように1ドルに近い価格で懐中時計や、腕時計を提供していました。“この価格帯でこんなものが手に入る”というような革新性のあるものをタイメックスが出していたという歴史があります。

 ラインナップの拡大というよりも、ブランドとして自分たちのプロダクトの信頼性を増したり、コアとする価格帯ではないけれどクオリティやディテールに関して、これだけの技術力を持ち、信頼性の高いものが作れるということを示す側面が大きいですね。高級化を狙っている、高い時計を売りたいということではなくて、 この価格帯でこんなことができるブランドなんだということを見てもらうためのラインナップであると言えます。

 いい品質のものを手にしやすい価格帯で提供しようという部分は変わってないということがブランドにとって非常に重要なのです。(ジョルジオ・ガリ S2 オートマチックなどは)タイメックスとしては高く見えるかもしれませんが、相対的に世の中にあるほかのプロダクトと比較したときに高額になってしまうようなものも、同じ仕上げ、同じ品質でタイメックスは手にしやすい価格で提供していることを知ってもらいたいというのが、最近のラインナップの意図ということですね。

佐藤
S1、S2などに見られる、肉抜きしたミドルケースデザインはどのように生まれたのですか? 
ジョルジオ
 そもそもジョルジオ・ガリコレクションというのは、 タイメックスグループのCEO(トビアス・リース・シュミット/Tobias Reiss Schmidt)から「これまでにたくさんデザインをしてくれているけど、自分が本当にしたいことは何かある?」という宿題をもらったことがきっかけで誕生しています。そのときはアメリカにいたのですが、ミラノに帰っていろいろと考え、自分のエッセンスとタイメックスというブランドの名前から逸脱しないけれど、モダンなスタイル、現代っぽさを少し感じさせるものにしたいと思いました。自分の名前を冠したコレクションをタイメックスブランドとして出すにあたって、やはりタイメックスでのキャリア、そしてデザイナーとしての自分自身のキャリアをどうやったら掛け合わせることができるかを考えたのです。

 コレクションに共通して取り入れている肉抜きしたミドルケースデザインというのは、実は1996年にノーティカをデザインをしたときに取り入れていたディテールです。いまでこそ珍しくはないですが、当時はとても珍しいデザインでありディテールでした。ですから、自身の名前がついたプロダクトを形にするにあたって、これを現代的にアップデートして取り入れることは、デザイナーとしての自分自身のキャリア、タイメックスブランドとしてのキャリアとしてもふさわしいものになると考えました。そこに新しさを加えることは楽しい一方、挑戦的なことではあったのですが、おかげさまでS1もS2も非常に好評で多くの反響がありました。 今後何十年か経ち、ブランドのアーカイブに入ったらうれしいですね。

佐藤
ジョルジオ・ガリ S2 オートマチックは40年ぶりのスイス製タイメックスだそうですが、何か特別な意図はあったのでしょうか?
ジョルジオ
 ちょっと厳密な年は分かりませんが、おそらく70年代の初め頃にそういう時計があったようですね。それがどうして消えてしまったのか、どんな時計だったのかは定かではないのですが…。 ただ、S2に関して言うと最初からスイスメイドのムーブメントを使おうという特別な意図はありませんでした。

 強調しておきたいのは、スイスメイドのムーブメントの使用は戦略やマーケティングの観点に基づいたものではなくて、結果論として搭載されたということです。S2のデザインをしていくなかで、どうやったらより洗練させられるか、よりよいものができるのだろうだろうかと考えたときに、これまでと同じようなムーブメントではなく、スイスメイドであればよりブラッシュアップされて、品質も上がるだろうということ、とにかくいいものを作ろうという考えの結果であることは付け加えておきたいですね。

 ジョルジオ・ガリコレクションは、自分が作りたいものを作るということからスタートしていることもあって、最終サンプルを見せるまでCEOには途中経過や資料のチェックなども特になくプロジェクトが進んでいきました。そういった信頼関係のなかで仕事できたことは幸運でしたし、タイメックスのような規模の大きな会社でそれが実現できたのはユニークだったと思います。売れたという事実もそうですが、タイメックスで新たな魅力を示すことができたのは、このコレクションがもたらしたプライスレスな成果です。

佐藤
デザインする上で大切にしていること、あるいはデザインにおけるプライオリティはありますか?
ジョルジオ
 いきなり時計をデザインし始めるわけではないんですよ。もちろんどんなプロジェクトなのか、どんな時計を作りたいか、作らなければならないかによっても異なりますが、私の場合はストーリーから始めます。大きなビルがあるとして、どういう景観に対して、どういうビルだったら美しいか、どういう建物が求められているかということにも言い換えられますが、“もしこんな時計があったらどうだろう?”ということを夢想して、どういう時計が求められるかを考え始めるのです。例えばアーリーセンチュリーかミッドセンチュリーか、スポーティーかエレガントかによっても考えることは変わっていきます。そこから、この時計をつけたらどうだろうと思いを巡らせて、まずはケースのシェイプ、そこから文字盤、針、インデックス…と、考えていくのです。

 ディテールはもちろん詰めていくんですけど、最初にデザインする上で考えるのは、まずストーリーがあって、この時計をする人はどういう人だろうとか、どういうふうにつけてもらいたいか、つけたらどんなふうに見えるだろうかと考えて、そこにちゃんとストーリーが伴うことが非常に大事なことだと思います。

 今日持っているマーリンジェット オートマチックを例にしてみましょう。マーリンは実際に1950年代、60年代にあったタイメックスの時計なんですが、60年代に有名だった『宇宙家族ジェットソン』というアニメからインスピレーションを得ました。この時計をデザインするときに考えたのは、60年代の時計を復刻することではなくて、例えば、その『宇宙家族ジェットソン』に見られる60年代の人たちが見ていた近未来ってどんなものだっただろうということでした。いろいろな資料を参考にしながら、そっくりそのままそれを持ち込むのではなくて、それを自分なりに解釈して、ここをこうしたら今っぽくなるのではないかという考えを詰め込んだのが、このマーリンジェット オートマチックです。ちょっとレトロスペクティブではあるけど、ただ60年代当時のままではなく、その当時の人たちが、どういう近未来を想像していたかを時計で表現しています。
 

 

ユーティリティ

- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

タグクラウド

ページ

  • ページが登録されていません。

新着エントリー

新着コメント

Re:ジャガー・ルクルトスーパーコピー マスター・グランド・トラディション・ ミニッツリピーター・パーペチュアルを発表
2025/11/04 from 承認待ち
Re:ジャガー・ルクルトスーパーコピー マスター・グランド・トラディション・ ミニッツリピーター・パーペチュアルを発表
2025/11/04 from 承認待ち
Re:ジャガー・ルクルトスーパーコピー マスター・グランド・トラディション・ ミニッツリピーター・パーペチュアルを発表
2025/11/04 from 承認待ち
Re:ジャガー・ルクルトスーパーコピー マスター・グランド・トラディション・ ミニッツリピーター・パーペチュアルを発表
2025/10/31 from 承認待ち
Re:ジャガー・ルクルトスーパーコピー マスター・グランド・トラディション・ ミニッツリピーター・パーペチュアルを発表
2025/10/28 from 承認待ち
Re:アクリヴィアスーパーコピーの新バリエーションブラック文字盤
2025/10/24 from 承認待ち
Re:ジャガー・ルクルトスーパーコピー マスター・グランド・トラディション・ ミニッツリピーター・パーペチュアルを発表
2025/10/24 from 承認待ち
Re:アクリヴィアスーパーコピーの新バリエーションブラック文字盤
2025/10/23 from 承認待ち
Re:アクリヴィアスーパーコピーの新バリエーションブラック文字盤
2025/10/08 from 承認待ち
Re:ジャガー・ルクルトスーパーコピー マスター・グランド・トラディション・ ミニッツリピーター・パーペチュアルを発表
2025/10/06 from 承認待ち