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アンドレア・パルメジャーニ(Andrea Parmegiani)氏は自信に満ちたコレクターだ。

世界で最も尊敬される時計ディーラーのひとり、ダヴィデ・パルメジャーニ(Davide Parmegiani)氏の24歳の息子であるアンドレア氏は、内気で臆病で、父親の時計業界での数十年の歴史に対して過度に気配りをすることさえあった。アンドレア氏は日頃一緒に仕事をしている大物コレクターたちに敬意を払いながら、父の好みの真似をするのではなく、父とともに働き、父親が共同会長を務めるモナコ・レジェンド・グループという小さなチームの一員として、希少な時計を発掘しながら独自の収集スタイルを確立してきた。
 確かにふたりの親密な関係はアンドレア・パルメジャーニ氏の見解を形成するのに役立ったが、しばらくSNSで彼をフォローしているうちに、私はパルメジャーニ氏のセンスとコレクションを彼独特のものとして楽しむようになった。情熱と深い知識というイタリア市場をより若々しくとらえたものだが、“ブルックリン・ブリッジ”の文字盤、ダイヤモンドベゼル、そしてニューヨークで初めて会ったときに彼が身につけていた、ダイヤモンドインデックスを備えたロレックスのプラチナ デイデイト Ref.1804のように、宝石がセットされたものも多い。

 世界屈指のコレクターに囲まれ、またそのコレクターから学んできた彼が、自分だけの時計、より深い意味を持つ時計、そして父親から学んだ教訓など、どのような嗜好を持っているのかに興味が湧いた。
 「時計は移り変わるもので、常に自分のためのベストを持っているとは限りません」とパルメジャーニ氏は私に語った。「いい金融ビジネスでもないし、顧客にとっても最高のものを独り占めしていると思われるのはよくありません。だから愛着を持ちすぎてはいけません。特にいい顧客があなたのつけているものを本当に気に入ってくれたのならなおさらです。しかし同時にまだ珍しいものや、もしかしたら顧客にあまり人気のないものを見つけたり、自分の時計を楽しむための空間を見つけたりすることもできます」

彼の4本
ロレックス GMTマスターII Ref.116758 SARU
 パルメジャーニ氏といえば、ジェムセットされた時計を思い浮かべる。彼が光り輝くものに夢中になっていた子どもだったせいかもしれないが、彼はすぐにGMTマスターII SARU(サファイアとルビー、そしてもちろんダイヤモンドを使用)と、その類似モデルをプロとして目にするようになった。


 「父が持っていた時計の在庫を初めて調べた日のことを覚えています。私はすぐにすべてのSARUに魅了されました」と話す。「彼はホワイトゴールド、イエローゴールドといったすべての金属にノーマルとフルパヴェといったすべての文字盤の組み合わせ、そしてブラックストーン、ルビー、サファイア、ダイヤモンドといったすべての宝石を揃えていました。クオリティ、多様性、ケースワークをすべて目の当たりにして、私はすぐにSARUに惚れ込みました」
 その愛情の一端はジェムセットされたGMTが、彼がこれまでに見た豪華な宝石で覆われた作品よりも控え目に見えたからだ(彼はそれもつけるが)。「もっと繊細でした」と同氏。「あまりに出来過ぎた話でした」

 ただしこのバリエーションは、フルパヴェダイヤルにブルーサファイアとダイヤモンドベゼル、およびダイヤモンドラグを使用しているが、一般的に採用されるダイヤモンドパヴェのセンターリンクブレスレットを備えていない希少なモデルだ。そしてそれは彼から離れていこうとした。それは父親が教えてくれた教訓のひとつ、ごくまれな例を除いて、物事を独り占めしてはいけないという事実によるものだ。
 「SARUコレクションの時計は売らないで欲しいと父に懇願していました」と話す。「でも時間が経つにつれ、彼は売り始めました。それはビジネスの内にすぎません。ひとりが去り、またひとりが去り、そしてまたひとりが去っていきました。ケースなかには私がいちばん気に入ったこの時計を含めて3、4本の時計が残っていました。彼がそれを顧客に持っていく準備をしながら書類をチェックしていたとき、私の祖父の名前を見つけました。その瞬間、彼は宝石商をしていた祖父が、この時計をロレックスから直接新品で購入したことに気づいたのです」
 そしてこの時計は一家に残ることとなり、現在はアンドレア氏が世話をしている。

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ヴァシュロン・コンスタンタン ピンクゴールド製のRef.4072 マルチスケールダイヤル、1947年製
 見本市や蚤の市で時計を漁る価値がないと思っているなら、このヴァシュロン・コンスタンタンを見れば考えが変わるかもしれない。

 「これは一生身につけられる時計です」と言う。「この時計はパルマ(イタリア)の見本市で見つけました。その時、私はダイヤモンド付きのとても素晴らしいオヴェットーネ(ロレックスのバブルバック)を持っていたのですが、この時計とすぐに交換しました」 
 しかし彼が迅速な決断を下すことができたのは、時計そのものだけではなく、ブランドに対する長期にわたる個人的な憧れがあったからだ。「父が持っているすべてのヴァシュロンを見ながら、私はずっとヴァシュロンを愛していましたし、パテックと同じレベルで彼らに感謝してさえいます。私にとってヴァシュロンとパテックは同じ品質であり、過小評価されているだけにすぎません。この時計が100倍希少であることを考えると、同じ価格でオヴェットーネと交換できたことは大きな収穫でした」
 「私は昔からマルチスケールのダイヤルが大好きでした」と、彼はダイヤル中央にある巻貝のようなタキメーターと、外側に二重の脈動と呼吸のトラックを備えたスケールについて語った。「昔からヴィンテージクロノグラフが好きで、特に40年代から50年代のものが好きです。特に運転中にクロノグラフ機能を使うのが好きなので、タキメーターは私にとってとても重要です。その点において、これは完璧ではないかもしれないですが、それでもこれに出合えたことは非常に特別なことだったと思います」


 パルメジャーニ氏は「クロノグラフはかなり使い込まれていて、作動させるためには非常にソフトなプッシュが必要です」と話す。「しかし全体的には驚くほどコンディションがよく、ブレスレットにつけても素晴らしいものでした」
 「ブレスレットは後から作ったんです。すべてのヴィンテージウォッチについて、私は完璧なブレスレットを装着した姿を頭のなかに思い描きます。今のところあまりストラップは好きではありませんが、このブレスレットがあれば、この時計は本当に何かを得ることができると思います。この時計にぴったりのブレスレットを探しましたが、これが第1候補ではありませんでした。むしろヴァシュロンのブレスレットを見つけたかったですが、最終的にこのハニカム状の伸縮性のあるブレスレットを見つけ、そして私の腕になじんだのです」
アスプレイ デイトナ By バンフォード ウォッチデパートメント
 ここにあまり見かけない時計がある。我々は2012年に、この時計の発表を報じている。ブラックコーティングされたケースに、パープルのポール・ニューマンダイヤルという組み合わせのこのロレックス デイトナはアスプレイ用にカスタムされたもので、ジョージ自身が顧客の要望やコラボレーションに合わせてロレックスやそのほかの時計をカスタマイズしていたバンフォード初期のころの時計である。実際に手にしてみると驚かされるものであり、わずか12本しか製造されていないという信じられないほど希少な時計である。パルメジャーニ氏によると、これは12本ある内の12番目で、おそらくバンフォードがカスタムした最後のロレックスである可能性が高いという。これを手に入れるために、彼はコレクションのほとんどすべてを手放した。

 彼は「自分の時計コレクションを作っていたとき、この時計が私のところに来ました」と話す。「そのなかにはブレスレット一体型のパテック Ref.3970も含まれていて、これは私が実際に自分で買った最初の時計でした」
 この時期、彼は思いがけないものに出くわした。「私たちがミラノに赴いていてクローゼットを整理していたところ、アスプレイのボックスが目に入ったのです。父に聞いたら開けるように言われました。“きっと気に入るよ”と彼は言い、それを開けてみたら正気を失いそうになりました」
 実際、ダヴィデ・パルメジャーニ氏はこの時計が発売されたとき、ロンドンを歩いていた際ほかのふたりの友人と一緒にウィンドウでこの時計を見て購入していた。彼は実際に3本セット(サブマリーナーとミルガウスも同じスタイルで作られていた)のすべてを小売店で購入したが、その後それらをしまい込んでしまったという。


 アンドレア氏はすっかり夢中になり、それまでに買ったすべての時計をすべて集め、この珍しいロレックスとの交換を申し出た。
 「父は当時すでに10万ドル(日本円で約1413万5000円)という大きな査定額をつけていましたが、彼のほうがいい取引をしたと思います。もちろん、父はその3970を売却しました。結局はビジネスなのですが、いまだにあの時計は恋しいです。しかしこれはジョージ・バンフォードとアスプレイが行ったコラボレーションの最後の時計として、信じられないほど特別なものです。バンフォード・デイトナは好きで、何本か所有もしたことがあります。でもこれだけはずっと残しておきたいですね。単なるカスタムウォッチではなく、その裏には大きな意味が秘められています。誰もがスティール製のスタンダードなものではなくこれらを求めていたほど、ロレックスに狂わされた時計であり、その歴史の一部を持つことは特別なことだと思うのです」
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ロレックス “ゼニス” デイトナ Ref.16559 SACO
 クロノグラフ、宝石、そしてこのコレクションの多くを結びつけているロレックスというテーマに沿って、アンドレア・パルメジャーニ氏のコレクションのなかで、最近購入されたものを紹介しよう。また、パルメジャーニ氏がストラップをつけているというルールを破っているが、彼を責めることができるだろうか? ここにあるのは非常に、つまり極めて珍しいロレックス デイトナ Ref.16559 SACOだ。これはサファイア・コニャック(ロレックス流に言えば)であり、時計にセットされた素晴らしいサファイアのことを指す。そして光の加減で変化するピーチカラーのマザー・オブ・パールダイヤルもある。さすがに“余分”だと思うだろうか? アンドレア氏はそれを理解している。

 「ロレックスがこのデイトナのエンドリンクに、ダイヤモンドをあしらったのが気に入りました」と話す。「やりすぎだと思う人もいます。でも私にとっては、時計がいかに自分の好みを反映しているか、そして時計そのものをどう思っているかがとても重要なのです。他人の評価に左右されないようにしています。私は本当につけることを楽しむのがとても好きで、これはとても楽しいものです。これは私にとってお守りのようなものです。身につけていると、強く、自信に満ちあふれ、自分自身に忠実でいられるような気がします」
 この時計には、そもそも彼がなぜジェムセットされた時計を愛するのかということに結びつく、特別な思いがある。
 「祖父が宝石を扱う仕事をしていたこともあって、私はルビー、サファイア、エメラルド、ダイヤモンドといった、宝石に対する魅力を形成していきました。18KWGは、コントラストをつけて石を引き立たせてくれると思いますし、それを見ると彼のことを思い出します」
 最後にもう1度、希少性の話に戻ろう。パルメジャーニ氏によると、ラグのあいだにコニャック・サファイア、ダイヤモンド、コニャックバゲットを組み合わせて製造されたデイトナは6本しかないという。しかしそれ以上に、パルメジャーニ家の友人にこの時計の写真を見せたところ、彼はこのような明るいマザー・オブ・パールダイヤルを持つ時計は2本しか知られていないと言った。オークションの世界で言われているように、 まさに“ほかを探せ”である。

関連商品:https://www.jpan007.com/brands-category-b-1.html

70年代は全体をとおして実験的なデザインが登場していた。

少なくとも私の心のなかでは、1970年代ほど象徴的な時代はない。実験的なもの、服装がイケてるもの、鮮やかな色彩のものなど、あらゆるもののベンチマークとなった10年間だったからだ。

 しかし、ポリエステルでできたレジャースーツや厚底シューズ、サンクンリビング、そしてボブ・マッキー(Bob Mackie)の衣装を着たシェール(参考までに、私は70年代のシェールへとスピリチュアル的に導かれているので、これは個人的なものだ)といった陳腐な見せかけを越えて、デザイン界の端々では革命が起きていた。グラフィックデザイン、インダストリアルデザイン、インテリアデザインだけでなく、建築やファッションなどすべて、色と形が爆発的に変化をしたのである。

 その10年は解放の時代(漂流の60年代)と過剰の時代(非常に派手な80年代)に挟まれた年代だ。市民の苦難と極度の経済不況に陥ったにもかかわらず、どうにか表現の自由を維持していたカウンターカルチャー(既成文化や体制を否定し、敵対するような文化のこと)が主導した、中興の10年である。

 1970年代は、50年代と60年代で安定していたルックに対する美的の激しい変動の振り子とでも言うべきか。そしてそれは時計学におけるデザインも例外ではなかった。

ラピスダイヤルのパテック
フィリ・トレダノ(Phil Toledano)氏の愛機、Ref.3733/1G.

 もちろんパテック フィリップの1970年代的デザインストーリーは、クォーツショックに対する作用反作用であることは間違いない。新しいテクノロジーに直面して、スイスのブランドは実験的になるしかなかったのだ。Cal.ベータ21(これについては後述する) にもかかわらず、“クォーツを手首につけることに抵抗があったようだ”と、ジャーナリストで作家のニコラス・フォークス(Nicholas Foulkes)が著書の『パテック フィリップ 正史(原題:Patek Philippe: The Authorized Biography)』で述べている。“この嗜好は正式な方針ではなく、むしろ無意識のうちの、暗黙の文化的スタンスだった”。

1970年代のパテック コレクション
1970年代製のホワイトゴールド製パテックウォッチ、メッシュブレスレットコレクション。

 アーティストであり時計コレクターでもある、Talking Watches出演者のフィリ・トレダノ氏に、彼のコレクション である1970年代(自称)の“大胆にデザインされたパテック フィリップウォッチ”について話を聞き、またショックに直面したパテックで何が起きたのかを、デザインの観点から詳しく探ってもらった。そして逆境を前にしながらも、なぜパテックはこれまでで最も革新的でエレガントなデザインを生み出せたのだろうかについても。

「これらの時計は小さな俳句のように、完璧な文章なのです」と興奮したように話すトレダノ氏。「その文章のすべての単語が完璧です。句読点のひとつひとつの位置もパーフェクトなのです」。テーブルの上から最初に手に取った時計は、Ref.3588/2だ。1974年製、WG製の35mm自動巻きカラトラバで、ダイヤルとメッシュブレスレットにシェブロン(ヘリンボーン)パターンが刻まれている。ダイヤルからブレスレットまでの連続したパターンは、トレダノ氏自らが“コンティニュアスコンセプト(Continuous Concept)”と名付けたものであり、この手法はヴィンテージのピアジェでも施されているのを見たことがある。これは時計の全体的な本質を彫刻的なオブジェに変えて、流動的でありながらも全体を一体化させる技法だ。それは連続させた上でのパターンであり、実際の時計がこの宝石のような主導的なデザインに関与することを排除するものではない。ケースはブレスレットに溶け込んでいるが、文字盤に描かれたブレゲの数字は、深く伝統的な時計技術へのおどけた賛辞として巧妙に機能し、これが歴史ある時計ブランドであることを思い出させる。トレダノ氏は「これはおそらくパテック史上最もパンクロックであり、言うなればパテックのシド・ヴィシャスですね」と笑った。

パテック カラトラバ
“コンティニュアスコンセプト”と呼んでいる、シェブロンパターンダイヤル&ブレスレットを持つRef.3588/2G。

パテック カラトラバ
パテック カラトラバ
 クォーツショックのあいだ、パテックは職人技を称えるブランドとしてのアイデンティティに磨きをかけて、Patek Philippe. Hand Crafted(パテック フィリップは手作業)や、A Tribute To That Wondrous Tool: The Human Hand.(人間の手という不思議なツールへの賛辞)といったスローガンを掲げた、キャンペーンを展開した。そしてエリプスが60年代の終わりにつくられたにもかかわらず、それは1970年代のパテックのシンボルとして定着していた。時計としてだけでなく、ジュエリー、カフスボタン、ライターなど、さまざまなアイテムが自由な実験の証として示されていた。パリの金細工師であったジョルジュ・ランファン(Georges L'Enfant)は、金色の組紐でエリプスを吊り下げた星座をモチーフにしたペンダントをつくり、18金無垢のホワイトとイエローのエリプスシェイプを持つライターには、ギヨシェ彫りとエナメル装飾を施している。エリプスはシンプルなデザインを特徴としながらも、クラフツマンシップを表現するためのキャンバスでもあったのだ。

 世界がクォーツに一本化されていくなか、パテックは高品質な機械式ムーブメントの生産を続けるという別の方向へと進んだ。「競合他社よりも、薄くて精度の高い機械式時計を生み出す競争になりました。それがエレガントさを決定づけたのです」と、パテック フィリップの専門家であり、コレクタビリティ(The Collectability)の創設者であるジョン・リアドン(John Reardon)氏は説明した。「ウルトラシン(超薄型)というフレーズは、その時期あらゆる時計メーカーを通じて何度も目にしました」。確かにメッシュブレスレットの使用もその一環であった。

パテックのスケーター
ラピスラズリ“スケーター”、Ref.3578/1G.

 この時代のケースやブレスレットといったパーツは外注されることが多かった。これはこの時代の多くの時計が、ブランド間で驚くほど似通っていたという事実を示している。私はオーデマ ピゲやヴァシュロン・コンスタンタンとは対照的に、70年代のパテックに熱いエールを送るトレダノ氏に、この分野には愛好家に対するブランドの洗脳がほんの少しでもあるのではないかと尋ねた。

「70年代のパテックの作品を見ると」と前置きをし、「誰がショーを指揮していたとしても、トップダウンで非常に明確な指揮系統があったように思えます。潔い考えでした。委員会のホストなしで介されるビジョンです」。トレダノ氏が愛用するRef.3729/1Gのケースは、アトリエ・レウニ(Atelier Réunis)によるものだ。アトリエ・レウニとは、ブランドのインハウスデザイナーであるジャン=ピエール・フラッティーニ(Jean-Pierre Frattini)が考案した、オリジナルのエリプスシェイプとデザインを、パテックの仕様に合わせて初めて実現したケースメーカーである。1975年にパテックはアトリエ・レウニを正式に買収し、彼らはRef.3970、ノーチラス、カラトラバ Ref.3919など、今日に至るまでのパテックの最も重要なケース製造を担当したが、2000年初頭まではほかの時計メーカーへの供給も続けていた。

オニキスダイヤルのパテック
Ref.3729/1G。

 Ref.3729/1 Gが真の70年代製の製品であると分類されるのは、一体型のケースとブレスレットを別にすれば、極めて彫刻的なそのデザインにある。オニキスダイヤルの純粋さとシンプルさは、金属細工が主要な構造要素になっているが、すべてが調和のとれたユニットとして機能している。私たちは時計をひとつのピース、ひとつのフォルムとして見ているのだ。

 Ref.3729/1Gのステップベゼルと、ブレスレットの“トゥバガス(Tubagaz)”デザインは、当時の人気家具のデザインを思い起こさせる。また爬虫類のようなブレスレットは、デセデの有名な“ノンストップ”と呼ばれるモジュール式ソファのデザインにも似ている。あるいは、もう少し手に取りやすいコンパクトなトーゴソファか。そのどちらも複数のライン、あるいは私が椎骨のように考えているものだ。Ref.3729のブレスレットの触感は、デザイナー兼エンジニアの故ブルーノ・ムナーリ(Bruno Munari)が“便利なものは官能的なものと結婚している”と分類したかのように、一種のセクシーさを時計に吹き込んでいるようである。この年代のデザインは、全体性に到達しようとする試みが多かった。“物には全体性があるが、アート、建築、デザインにも全体性がある。それはすべて同じ視覚言語の一部なのだ”と、高い評価を得ているムナーリの大著、『Design As Art』 のなかで書かれている。

ラピスダイヤルのパテック
 Ref.3733/1Gは同様のデザイン性を想起させるが、今回は長方形とラピスダイヤルを採用し、ケースからブレスレットまで連続性を持たせている。70年代のパテックが重視していたのはシェイプ、質感、そして重量感であったのは明確だ。「このブレスレットはミスリルです」と冗談を放つトレダノ氏。しかしある意味、彼のコレクションにあるメッシュとチューブ状のフォルムのどちらにも、神秘的な性質があることには同意できる。ある種の万華鏡のような効果、あるいは蛇皮や樹皮といった有機的なテクスチャーやフォルムをエミュレーションした、時計の幻覚のような感覚だ。

ラピスダイヤルのパテック
パテックのケースバック
 これらの言及は、明らかにテクノロジーへの熱狂に対する避けられない反応であったことを表している。例えば、レンゾ・ピアノ(Renzo Piano)、リチャード・ロジャース(Richard Rogers)、チャンフランコ・フランキーニ(Gianfranco Franchini)によって1977年に設計されたポンピドゥー・センターは、まさに技術の勝利を物語る重要な表現だった(いつもスウォッチのジェリーフィッシュを思い出す。ちょっと話がそれた)。ポンピドゥーは、ガラスのトンネル内に設置された外部のエスカレーターや、鮮やかに色分けされてむき出しになったサービスシステムなど、これまで人々が隠そうとしていたすべてを見せびらかした建物だ。これはウォッチメイキングにおける美意識に対する今日までのアプローチや、オープンワーク、スケルトンダイヤルに焦点を当てたものと非常に似ている。しかしパテックは、腕時計に関していささか頑ななまでにテクノロジーを貫き、70年代にまったく新しいデザインコードを自ら切り開いた。「パテックが言いたかったのは、“我々に何ができるか考えてみても、透明なケースバックすら見えていない”ということでした」とトレダノ氏は説明した。

2本のパテックウォッチ
ミラネーゼスネーク(Ref.3604/1G)と、チーズグレーター(Ref.3597/2G)のブレスレット。

 パテック フィリップがクォーツ技術を完璧に無視していたわけではない。実際、高精度のエレクトリック技術は、同ブランドが製造していた大型時計や卓上時計といった各種製品へ積極的に採用されていたからだ。そしてブランドは、1969年に発表されたベータ21(長いプロセスに関わった、21ものスイスの時計会社にちなんで名付けられた)の開発に貢献。これがパテックによるクォーツウォッチ進出のきっかけとなった。ベータ21はツーピースケースとして、これもアトリエ・レウニによって製造された。これはパテックの機械式時計が超薄型を追求していたのとは対照的に、異例とも言える扱いにくいサイズだった(なお1977年に発表され、注目を集めたCal.240が超薄型の規格だった)。

 Ref.3603(下の写真)は、エリプスの形とクォーツムーブメントが交差したとてもおもしろいモデルだ。またRef.3597/2Gはより幅が広く、WG製で、 “チーズグレーター(チーズおろし器)”スタイルのブレスレットが特徴だ。正直なところ、私はトライポフォビア(集合体恐怖症)なのでこのブレスレットには手を出さなかった。理不尽な心配はさておき、クォーツムーブメントにもかかわらずこのリファレンスでは斬新なデザインが維持されていた。ベータ21はクォーツウォッチだが、ダイヤルはとてもアナログ的だった。LEDやLCDディスプレイなど、パテック フィリップにはレトロフューチャリスティックなものは見当たらない。

関連商品:https://www.yokowatch.com/PatekPhilippe-Watch.html

アメリカ発祥の老舗時計ブランド”HAMILTON(ハミルトン)”から、新作“ベンチュラ エッジ スケルトン”が登場した。

本作は、1957年の初代モデル誕生以来、革新的なデザインで知られるシリーズ。そのモデルに新に未来的な造形を備えた最新モデルだ。

ステップケースを特徴とする従来のフォルムから大きく進化し、建築的な角度を持つアングルフォルムを採用。ケースにはブラックPVD加工を施したステンレススチールを使用し、サイズは51×47mm、厚さ13.8mmである。

同コレクションの象徴ともいうべきアシンメトリーの文字盤は2層構造になっており、上層にスケルトン加工を施した真鍮プレートを、下層にはステイン仕上げのミネラルクリスタルを組み合わせた。

さらに、グラデーションをかけたミネラルガラスのプレートが、内部のメカニズムを段階的に見せてくれる。文字盤下部には打ち出し加工によるメタルフレームをあしらうことで、メタル特有の質感もプラスした。

 

ムーヴメントはETA社製の自動巻きキャリバー“H-10-S”を搭載。約80時間のパワーリザーブや5気圧防水性能を備える。このほか、ニヴァクロン製ヒゲゼンマイを採用することで、耐磁性や耐温度変化、耐衝撃性を高めている。針にはスーパールミノバX1グレードをインレイ加工し、暗い場所でも使い勝手が良い。

カラーは、ブラックとシルバーの全2色展開。

なお、販売価格はブラックケースモデルが30万6900円、シルバーケースモデルが28万9300円となる。

カーボンファイバーケースを使用した2本の新しいブルガリ オクト フィニッシモ

ブルガリはオクト フィニッシモのコレクションを拡充し続けており、この度、新しい“カーボンゴールド”製オートマティックとパーペチュアルカレンダー(QP)のふたつを発表した。この2本の新作は、オクト フィニッシモとしては初の試みとなるカーボン(ファイバー)ケースを使用し、リューズにはローズゴールドを採用。それに合わせて、ゴールドアクセントがよく映えるカーボン製ダイヤルを組み合わせている。これはブルガリがオクト フィニッシモのラインナップで、新素材を積極的に実験していることを示す最新の例と言える。
ブルガリは1993年に初めてカーボンゴールドウォッチを発表したが、今度はそのカーボンケースをオートマティックとパーペチュアルカレンダーのオクト フィニッシモに持ち込んだようだ。どちらのモデルもアンスラサイトカラーのカーボンケースとつや消し仕上げのマットブレスレットが特徴。この“ゴールド”はRG製リューズから来ており、トップにはブラックセラミック製インサートを採用。これはカーボンダイヤルに配された、RGの針とインデックスに合わせることで補完している。どちらのケースも直径40mmで、フィニッシモの名前にふさわしく超薄型だ。
パーペチュアルカレンダーのほうには、ブルガリの自社製Cal.BVL305を採用。これは2021年に発売されて以来、世界で最も薄いパーペチュアルカレンダーとして君臨し、厚さ(または薄さ)はわずか2.75mmしかない。文字盤上部にレトログラード式の日付表示、下部(6時位置)にはこちらもレトログラード式のうるう年という、おなじみのディスプレイを同キャリバーが動かしている。一方カーボンゴールド オートマティックは、マイクロローターのCal.BVL138を動力源としており、特徴的なオフセットセコンドを7時位置に備える。
 ポリッシュ仕上げされたRG製リューズは、これらの新しいオクト フィニッシモ カーボンゴールド ウォッチで唯一となるソリッドゴールド製であり、インデックス・針はすべてゴールドカラーで統一。オクト フィニッシモ カーボンゴールド オートマティックのメーカー希望小売価格は367万4000円(税込)、カーボンゴールド パーペチュアルカレンダーは1327万7000円(税込予価)で提供される。
ブルガリ アルミニウムや新しいカーボンゴールド オクト フィニッシモ、そしてそれよりずっと前から、ブルガリは常にいろんな素材を使って実験的な試みをしてきた。オクト フィニッシモは現代のスポーツウォッチとしての競合製品とも一線を画しているといえる。スティール、チタン、セラミック、ゴールド(特にイエローゴールド)、そして今ではカーボンで手に入れることができるのだ。
なかでもカーボンはオクト フィニッシモによくなじんでいるようだ。ファブリツィオ・ボナマッサ(Fabrizio Buonamassa)氏がかつて説明していたように、薄さの追求はそれ自体が目的ではない。“ダイナミックな緊張感を高めることが目的である。つまり正面から見たときは強靭で力強く、アグレッシブさもありながら、横にするとその薄さに驚かされるというユニークな提案をすること”だったのだ。丈夫で耐久性がありながら軽量なカーボンも、同じような特性を持っている。遠くから見るとカーボンケースはモダンかつ挑戦的で、ブルータリズム(粗野的)にさえ見える。しかしそれを手に取ると、その軽さに驚かされる。
 さらにアンスラサイトのカーボンは、新しいカーボンゴールドモデルのRGのアクセントによって見事に引き立てられている。この価格面について、例えばチタンでできた同じモデル(チタンのオートマティックは税込で215万6000円、チタンのQPは税込で1013万1000円)よりも高いプレミアム価格ではあるが、ただほかのカーボンケースの時計に見られるプレミアム価格とは遜色ない。

基本情報
ブランド: ブルガリ(Bulgari)
モデル名: オクト フィニッシモ(Octo Finissimo)
型番: 103779(オートマティック)、103778(パーペチュアルカレンダー)

直径: 40mm
厚さ: 6.9mm(オートマティック)、7.6mm(QP)
ケース素材: カーボン(ファイバー)ゴールド、ローズゴールド製リューズ(ブラックセラミック製インサート)
文字盤: カーボンダイヤル、ゴールドカラーの針
インデックス: ゴールドカラー
防水性能: 100m(オートマティック)、30m(QP)
ストラップ/ブレスレット: カーボン製ブレスレット、3枚ブレードのフォールディングバックル(オートマティック)、DLCコーティングを施したスティール製フォールディングクラスプ(QP)

ムーブメント情報(オートマティック)
キャリバー: BVL138
機能: 時・分・スモールセコンド
直径: 36.6mm
厚み: 2.23mm
パワーリザーブ: 約60時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万1600振動/時
石数: 31
追加情報: プラチナ製マイクロローター

ムーブメント情報(パーペチュアルカレンダー)
キャリバー: BVL305
機能: 時・分、パーペチュアルカレンダー(レトログラード式日付・うるう年表示、ポインター式曜日・月表示)
直径: 36.6mm
厚み: 2.75mm
パワーリザーブ: 約60時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万1600振動/時
石数: 30
追加情報: プラチナ製マイクロローター

関連商品:https://www.hicopy.jp/brand-copy-IP-18.html

フランス・パリの独立系の新鋭ブランド“MU:N(ムン)”が国内に再上陸する。

現在公開されているムンの2つのコレクション“ORIGIN”と“ORION”を紹介する。

2022年に初コレクションとして登場した”ORIGIN(オリジン)”は、時計愛好家のオンラインフォーラムがきっかけ。以降、デザインや仕様決定にユーザーが参加する“共創型開発”を貫いている。

デザインは、シンプルさと詩情をモットーに、北欧デザインらしいミニマルな造形と、自然の色彩や質感を調和させた美しさが特徴。カラーは”ORIGIN BLUE”と”ORIGIN COBALT”の2色展開で、それぞれグラデーション文字盤が光を受けて変化し、詩的な美と機械的精密さが融合する仕上がりとなっている。

ケースは、38mm径サイズ。サファイアクリスタル製の裏ブタからは、ムーヴメントの繊細な動きを鑑賞できる。

■Ref.OA51B。SS(38mm径)。5気圧防水。手巻き(Cal.SW288-1A)。24万2000円
内部には、スイス製手巻きムーヴメント”Cal.SW288-1A”を搭載。同ブランドが提携しているスイスの“PH Saner SA”で1日あたり±7秒まで再調整して精度を高めた。

また、17世紀のタロットカードに由来する特製ローターを装備しているのも特徴で、2匹のオオカミ犬や塔、ザリガニ、月などを刻印。美しいデザインと複雑機構ムーンフェイズウオッチとして楽しめることだろう。なお、販売価格は24万2000円だ。


MU:N(ムン)
ORION(オリオン)
そして、2024年に登場した”ORION(オリオン)”は、フェムトレーザーを用いた発光式月相ディスクを採用。0.001mm単位の精密な加工により、月面や星々を立体的に描き出し、夜空を切り取ったような幻想的な表情を持つ。

■Ref.OR08W。SS(38mm径)。10気圧防水。手巻き(Cal.SW288-1M)。30万8000円
ケースは、38mmサイズ、素材はステンレススチールを採用した。

また、内部にはスイス製手巻きムーヴメント”Cal.SW288-1M”を搭載。約41時間のパワーリザーブ機能を誇る。

さらに”ORION(オリオン)”には、NASAのカラーを基調にした限定モデル”ORION BLUE”と”ORION GREEN”も展開。”ORION BLUE”は、アルテミス計画への敬意を、”ORION GREEN”は欧州宇宙機関の技術力を表現しているという。いずれも世界200本限定だ。

なお、販売価格は通常モデルが30万8000円。限定モデルが33万円となっている。

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